カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「知のタネは、やはり播かなきゃ芽は出ない」~ハヤブサ2着陸成功に寄せて

 「はやぶさ2」の着陸成功は感動の物語だった

 離れて暮らす3歳8か月の孫も 興味深くニュースを見たようだ

 私が半年前にタネを蒔いておいたから――

 それが役立つことはめったにないが

 タネは播かなきゃ芽は出ない

というお話。

f:id:kite-cafe:20190224154355j:plain

トミカ トミカプレミアム06 JAXA はやぶさ2

 

【感動を我が家に】

 22日(金)午前7時29分、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウ」への第一回着陸を成功させたようです。まずは“おめでとうございます”といったところでしょう。

 前回のはやぶさ初号機のときはまったく注目していなくて、2010年前の帰還の際に全国的な話題となってようやく知った一人です。
 そのときのニュースに、細かく分解して火の玉になって飛んでいく「はやぶさ」の映像を見ながら「はやぶさく~ん」と叫んで泣く保育園くらいの女の子が出ていて、深く感動しました。

 もちろん泣くほどの思い入れは親の影響のあってのことですが、そんなふうに子どもを育て、子どもと一緒に「はやぶさ」の軌跡を追い続けたお父さんは立派だなと思うと同時に、帰還直前になってまんまとブームに乗った自分を恥じたものでした。

 そんなこともあって今回は最初から注視するとともに、その父娘と同じように、私も子どもと一緒に「はやぶさ2」の跡を追ってみたいと思ったのです。

 しかし子どもは二人ともすでに20代後半。そう易々と親の意向に沿ってくれはしません。そこで目をつけたのが孫のハーヴ。これなら手なづけることができるかもしれません。

 

【遠隔操作で孫を手なずける】

 まずアマゾンでプラモデルトミカプレミアム06 JAXA はやぶさ2を買い、娘のところに送ります。3歳の声を聞いてからエンドレスの「なになに少年」ですから、「はやぶさって何?」「2(ツー)って何?」と訊き続けるに決まっています。

 しばらくすると案の定、娘のシーナから悲鳴に近いメッセージが入ります。
「お父さん! 『はやぶさ』って何? ツーってどういうこと、宇宙って何・・・って、どう答えたらいいの?」
 そしていくらもしないうちに短い動画が送られてきて、ハーヴは小さな模型をゆっくりと手で飛行させながら、
「ずうっと遠くまで行くとウチューなんだよ。ウチューは広いんだよォ~」
とか言っています。もちろん意味など分かっていないと思いますが、それでいいのです。何となく自分の知らない世界があって、「はやぶさ2」を通してそれとつながっているということが分かればいいのです。
 ハーヴがそんな言い方をするということは、嘆きながらも娘のシーナが何とかうまく納得させているということでしょう。いい娘を持ちました。
 それが半年前のことです。

 最近ではシーナが第二子を授かったことと関連付けて、
「宇宙は赤ちゃんのいるところ」「ハヴくんの赤ちゃん、大きい丸いところ(星のこと?)にいるんだよね」とか訳の分からないことを言っていたようですが、22日が迫り、テレビでも扱うようになると自然に目も行くみたいで、当日のニュースはかなり熱心に見ていたようです。

はやぶさ2」の帰還は来年12月。ほとんど2年先のことですが、そのころになるとこの子も5歳目前。今よりさらにものが分かっているはずですから、「はやぶさ初号機」のときの女の子のように、感情移入して一緒に泣くような子に育っているかもしれません。なかなか楽しみなことです。

 ただしそれが単純にハーヴの将来につながって、宇宙科学者になるとかJAXAに入るとか言ったふうにならないことは十分承知しています。

 

知の種まき、漁網を広げる】

 私は自分自身の二人の子にものすごくたくさんの種を播きました。いちおう子どもの教えるプロでしたから普通の親よりずっと上手くできたはずです。つぎ込んだ時間も資金も、薄給のサラリーマンとしては尋常なものではありませんでした。しかし何ひとつ目に見える形にはならなかったのです。
 もったいなかった気もしますが、もともと教育というのはそういうものなのででしょう。経済的にはムダだらけです。

 考えてみると小学校までの学習はともかく、中学生以上の勉強なんて結果論で言えばムダばかりです。学んだはずの万葉集古事記に関する知識を生業や趣味にして生きている人が何人いますか? 微分積分なんて、そうした用語が存在することすら忘れてしまっている人が大部分です。

 フィギュア・スケートの織田信成は信長の「ひ孫」だと言うとまんまと騙される人がいくらでもいます(17代目の子孫だが「ひ孫」ではない。信長はそんなに最近の人ではない)。中高6年間も学んだのに英語がほとんどしゃべれない、というのはよく言われることです。
 しかし普通の人にとって、学問というのはそういうものだとしか言いようがありません。

 1000ページの本を読んだとして、10年後に内容として頭の片隅にでも残っているのは10ページ分もありません。そのうち実生活に役に立つのは100分の1もないでしょう。つまり1ページ分も役に立たない。せいぜい4行です。
 ただしその役に立つ4行を手に入れるために、1000ページの本は読んでおく必要があります。

 これについて、むかし高橋和巳という小説家はうまいことを言っていました。
「魚が引っかかる網目はひとつあればいい。しかし海に網目ひとつを下ろしても魚を捕まえることはできない。たったひとつの網目を生かすためには、巨大な漁網を広げておく必要があるのだ」


はやぶさ2」の模型を持っていることや着陸のニュースを熱心に見た経験が、ハーヴの将来に直接的に生きることはないでしょう。しかしタネは播き続けないと芽は出て来ないのです。

 これからも折に触れて刺激を与えていきたいと思います。