カイト・カフェ

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「それも違うでしょ、先生」~哀しいほど不器用なお医者さんの話

今ごろになってインフルエンザの予防接種に行ってきました。
そこで対応していただいた不器用なお医者さんの話 

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  いよいよ流行り始めたというので、インフルエンザの予防接種に行ってきました。
 流行り始めてから行くようでは遅いことは知っていたのですが、26年前に妻からうつされて以来四半世紀の間、学校というハイリスクな場にいながら一度も罹らずに来たという自信と、値段の高いことと、今年は高齢者として市から補助券をいただいているという損得の狭間で、ぐずぐずと悩んでいたらこの時期まで来てしまったのです。

 もっとも、考えたら千円少々を惜しんで罹ったらバカですから、もっと早く行くべきでした。

【思わぬ悪評】

 目と鼻の先の開業医なのですが、それでも行く前に、いきなり行って打ってもらえるものなのか聞いてみようと思って、ネットで電話番号を調べることにしました。

 都市名と病院名を入力すると、病院検索のサイトがいくつも出てきます。そのトップをクリックして電話番号を確認したら、その下に「口コミ評価」の欄あって、なんとそれが五段階中「1」なのです(口コミ件数1)。

 書き込みを読むと、
「看護師さんは雑談ばかりで問診票も渡してくれず、診察室に入るとコンピュータとお話しするお医者さんが対応してくれました。私の話はさっぱり聞かず、喉をみることすらしてもらえません。
 『はい、それではお薬を出しておきましょう』と言われたが、診察もしないで渡されたお薬は怖くて飲めません。速攻、次の病院にハシゴしました。二度と行きません」
とケチョンケチョンな話。

 けれど誹謗でも中傷でもないから“削除”というわけにはいかないのかもしれんなあ、と内心、切なく思いました。
 というのは、看護師さんの雑談はともかく、「コンピュータとお話しするお医者さん」というのは言いえて妙で、実際その通りであることを良く知っていたからです。

 

【不器用なお医者さん】

 目と鼻の先にありながら、めったにそのお医者さんにかからないのは、長くお世話になっている主治医が別にいるからで、他意はないのですが数回行ってみた時の感じは確かによくありません。

 尊大だとか横柄だとかではなく、話し方は丁寧だけどとにかく誠意が感じられない、こちらの話を聞いていない、最後に送り出すとき以外顔も見ない、一方的に話して終わりにしてしまう、そんな感じなのです。
 これではお年寄りなど寄り付かないだろう、そんな気がしました。あちこち調子が悪すぎてうまく説明しきれないお年寄りは、まず話を聞いてもらうことが大切です。一度来たらコリゴリという人はたくさんいたはずです。

 実際、20台も置ける駐車場は埋まるどころか常に9割以上空いていて、待合室に入っても待たされるということがありません。時期遅れで出かけてもワクチンが足りなくなっている気がしない、だから予防接種はここがいい、という病院です。よく潰れないものです。

 思えばこういった人――べらぼうに頭が良くて勉強ができて、けれどコミュニケーション能力がさっぱりで、不器用で、いつも苦労している人は、学校勤めをしていると何年かにいっぺん、児童生徒として出会うタイプです。
 大変ですよね。

 ネットの評価はケチョンケチョンですが予防接種だけですし、お医者さんのそうした性向を良く知っていますから、電話をかけてOKが出ると、私は気にもせずに出かけました。とにかく打ってもらえばいいのです。
 ところが――。

 

【それも違うでしょ、先生・・・】

 もしかしたら私が見たサイトの「口コミ」を、先生もご覧になって反省したのかもしれません。
 久しぶりのお会いすると妙にハイテンションで、まるで別人のようーー。
「今年はですね、もう(予防接種は)終わりにしようと思っていたんですよ。でもちょうど少し(薬が)余っていたんですよね。良かったですね。
 お風呂は今日、入ってくださっても結構です。お注射の跡に絆創膏をプチっと張りますが、2時間ほどしたら取っても構いません。利き腕とは反対側の腕を出してください、 そう、肩までまくり上げてぇ・・・」

等々、早口で陽気にまくし立てたあと、やおら席を立つと片手を腰に当て、
「はい、こんなふうに腕を曲げて、さあ、打ちますよ~」
 なにかテレビショッピングの芸人に煽られているような感じで、私も力が入って「フン!」と腕を構えます。

 子どもじゃありませんから、そんなふうに仕草までして見せる必要はなかったのです。それに予防接種はノリや勢いやリズムでするものでもないでしょう。乗せられた私も私ですが。

 誰かがそんなふうに患者対応を教え、彼なりにアレンジしたのかもしれませんが、
「それも違うでしょ、センセ」
と私は心の中でつぶやきます。

 明るく楽しければ患者が喜ぶというものではありません。
 滑稽で、しかも哀しい気持ちになりました。

 先生、頑張ってくださいね。