カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「ビビるハーヴ」〜ウチの臆病者とアインシュタイン 1

 夏休み中のできごと、考えたことについてしばらく書いていこうと思います。まずは7月末のできごとです。 f:id:kite-cafe:20181214192657j:plain

  夏休みだということで、都会に住む孫のハーヴが母親のシーナと一緒に遊びに来てくれました。3歳になりました。
 食事も自分で摂れるようになり、体の不調も自分で説明できるようになったので、余計なことを心配せずに済むようになっています。あと数年もすれば「部屋の片づけができない」だの「遊んでばかりいる」だのと様々に心配しなくてはならなくなります。けれど今は何の気遣いもいりません。遊んでばかりいてくれればそれでいいのですから。
 今がかわいい盛りです。

 今回の訪問は私の住む町で大きな花火大会があり、それを家族で見に来るというものでした。しかし当日はあいにくの台風で、花火は日曜日に順延となり、遅れて到着するはずだった婿のエージュも翌日に仕事が入っていたため、結局来れなくなってしまいました。そこで私が父親代わりとなって、シーナとともに花火見物に行くことになったのです。

 会場につくとハーヴは、氷水を食べたり、ちょうど休憩中だった太鼓グループからバチを借りて太鼓を叩いたりと終始ご機嫌で、花火の始まるころには草原にシートを敷いてすっかり準備が整います。
 母親のシーナは、
「花火、始まるねー。ドーンって大きな音するんだよー」
と盛んに話しかけます。
 シーナには心配事があって、それはハーヴが無類の臆病者でもしかしたらパニックになるのではないかと思っていたのです。そこで何度も何度も言い聞かせ、覚悟を決めさせようとしたのです。
 ハーヴも理解したような顔をしています。

「もう三歳だから大丈夫だと思うけど、それでもねぇ」

【やっぱりダメだ】

 最初は五か所から同時に打ち出されるスターマインでです。
 月のない漆黒の空に、満開の花火が鮮やかに咲き乱れます。ほどよい風があって煙もさっと吹き飛ばされ、黒のキャンバスを一瞬で塗り直します。

 次は大花火5連発。真下で見上げる私たちの腹にも、ズドーンと地響きの感する見事な大輪です。
 とそのときです。私たちの横で「ウ、ギャー!!」という大きな声がして、突然ハーヴが叫び始めます。
「恐いよう―」「恐いよー」「恐いよー」
 見ると花火を見上げながら、その場駆け足のように地団太を踏んでいます。
 こうなると手がつけられません。

「大丈夫よ。ハーちゃんの大好きなお母さんもジイジもそばについているんだから」
「恐くなんてないって。ホラ、花火、すごくきれいでしょ」
 そのくらいのことを言ってもまったく聞く耳を持たず、「恐いよう―」「恐いよー」「恐いよー」の大連呼。
 1分と経たずして私たちも諦め、その場を退散することにしました。

 しばらくは恐怖で歩けないので私の抱っこで会場を後にしたのですが、そうなるとハーヴは正面い花火を見ることになり、大きな音がするたびに「恐いよー」「恐いよー」叫び続けます。シーナが、
「恐いなら見なけりゃいいでしょ」
というのになぜか見ている。

 そのうち私も疲れて歩かせることにしたのですが、顔は花火から逸らせても音は遮断できないのでハーヴはその後もドンとなるたびに「恐いよー」「恐いよー」。
 草の上に座る観衆の間を歩く間も「恐いよ―」「恐いよー」。
 そんな姿を見て一部の人が、
「あらあら泣いちゃって」とか「やっぱちっちゃい子は怖いんだ」とか言うのが聞こえてくると、それが気に入らないのか傷ついたのか、ハーヴの声は次第に怒るような感じになり、「恐いよ!!」「恐いよ!!」も言外に「お前ら、この恐さが分かってないんだ!」「なんでオレのこと笑うんだ」「花火の恐ろしさを知らねえんだな」と言っているみたいでさらに笑いを誘います。私も思わず失笑せざるを得ませんでした。

【人が怖い、遊具が怖い、噴水が怖い、慣れないことは全部怖い】

 ハーヴの臆病は徹底していて、前日、児童公園に連れて行った際も、大きな遊具に走って近づいたはいいものの、すでにたくさんの小学生が取り付いていることを見ると突然立ち止まり、凍り付いてそれ以上前に進もうとしません。
 時間をかけて言い聞かせ、ようやく階段をひとつ上がったかと思ったらまた立ち止まって、
「もうおウチに帰る・・」
 それもなだめすかして水場に行き、中に入ってい遊べる噴水まで行くとそこでも人に怯え、その子たちのいなくなるのを待って再挑戦すると今度は水の勢いに怯え、近づくこともできません。
 結局かなり離れた木陰まで移動して、持参の水鉄砲を5〜6回飛ばしただけで帰って来てしまいました。
 せっかくそこまで連れてきたジジとしてはがっかりです。いったいいつからそんな臆病者になったのか、そんなふうにため息もつきたくなります。
 しかしその答えは分かっています。
 産まれた時からです。

【筋金入りのビビリ】

 1歳・2歳のそれぞれの夏に出かけたグアムや沖縄では海に入るのが怖くて大騒ぎ。波打ち際から20mも離れた砂浜に陣取り、親に水を運ばせて遊ぶ情けなさ。砂の感触も怖くれレジャーシートの上しか歩けません。
 私の家に来ても犬どころかウサギも怖くて近づけない。
 動物園に行けばリスザルレベルの小型動物ならいいものの、ニホンザル以上の大きさになると怖くて見るのもいや。

 そう言えばずっと昔のハイハイの時期ですら、家の中で自動掃除ロボットが怖くてギャーギャー逃げ回っていたような子です。畳の部屋とフローリングの間の3cmほどの段差が怖くて、後ろ向きになって足の方から降りる体たらく。
 筋金入りの臆病息子なのです。
 もうここまでくると、誰が教えたわけでもない、生まれつきのビビリとしか言いようがありません。

(この稿、続く)