カイト・カフェ

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「天才の脳」〜ウチの臆病者とアインシュタイン 2

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  臆病な孫息子のハーヴについて書いています。

【人は産まれながら違う】

 生来の臆病者でしかしそのために危険なことは一切せず、いきなり車道に飛び出して親の肝を冷やすといったこともまったくありません。医者にかかるようなけがを一度もしたことがないのもその臆病のおかげです。
 同年代にはいついかなる時も目を離せない子もいるのですから、親にとっては楽な、育てやすい子といえます。

 シーナもそのことに気づいていて、夫のエージュとともに「次の子はこんなに簡単に行かないよね」と自戒と感謝を込めて囁き合っていたりもします。
 産まれながらの性格というのが確実に存在するのです。しかもその影響力は非常に高い。

 半世紀以上前に一世を風靡した哲学者ボーボワール女史は、
「女は女に生まれるのではなく、女に育てられるのだ」
と言いましたが、そんなことはありません。女は女に生まれるのであって、男として育てても女です。もちろん男もしかり。

 おりしも7月29日のNHKスペシャル「追跡!!アインシュタインの脳 〜失われた“天才脳”の秘密に迫る〜」では、天才の脳は形状からして個性的であるという話をしていました。天才もまた、生まれた時から天才だという話です。

アインシュタインの脳を探す】

 番組のたどる経緯はこうです。
 1955年に亡くなったアインシュタインの脳は遺族の了承のもとで密かに摘出され、240個に分割され研究に供されます。しかし摘出した医師は個人で研究することに限界を感じて半数近くの113個を世界中の研究者引き渡し、その大部分が現在行方不明になっているというのです。しかも失われた部分は頭頂葉前頭葉といったまさに“天才”に関わる部位です。

 NHKの取材班は7カ月にわたって行方を探ったのですが発見されたのはごく僅か。さらに返還されるまでに至ったのは発見された中の数個にすぎません。それが番組の全体の流れです。
 しかしその探査の過程で分割前の脳を撮影した300枚以上の写真が発見され、コンピュータ処理によって脳の外観だけは再現することには成功します。その3D画像がかなり異様なものだったのです。

アインシュタインの脳】

 まず、視覚や聴覚といった感覚情報を縫合したり言語や数学的処理を行う部位である頭頂葉が、アインシュタインの場合、右脳と左脳でずいぶん異なる形をしていたのです。具体的に言えば左脳の上頭頂小葉が右脳のそれに比べて著しく大きく、逆に下頭頂小葉は左脳が小さく右脳が大きいというふうで著しくバランスを欠いています。アインシュタインは私たちとは相当異なる感覚で思考をしていた可能性が考えられます。
「彼の場合、数式は条件から次第に積み重ねるのではなく、全部が一気に降って来る。彼はそれを逆にたどって全体を把握した」
という伝説は、もしかしたらほんとうだったのかもしれません。

 アインシュタインの脳のもう一つの特徴は、計画・判断・推論などをつかさどる前頭葉にあります。
 脳の皺の隆起した部分を「脳回」というのだそうですが、通常私たちの前頭葉は三つの脳回から構成されています。それに対してアインシュタイン前頭葉には四つ目の脳回があるのです。前頭葉の容積が大きくなりすぎたため、無理に織り込んで新たな脳回を生み出したのです。 
 そもそも私たちとは前頭葉の絶対量が違うのです。
 天才は脳の大きさ、形からして違っていたわけです。

【天才は生まれるのみ。育つわけではない】

 もちろん脳の見た目と能力との間に直接的な関係がない、と考えることもできます。
 例えば人間の男性の脳は平均1350〜1500グラムほどの重さがありますが、フランスのノーベル文学賞受賞者アナトール・フランスの脳は1017グラムしかなかったとされ、今、話題にしているアインシュタインも低めの1230グラムです。
 いずれの数値も脳の重さと能力との間に関係がないことの例証として使われますが、それぞれ80歳、76歳の時の脳ですから彼らが最も充実した仕事をした40歳前後(アナトール・フランス)、25歳(アインシュタイン)の脳はもっと重かったはずです。

 一般に知的能力の高い人の脳は平均より重いと考えられます。東京大学の医学部には明治以降の著名人の脳がたくさん保管されてるそうですが、夏目漱石の脳が1425グラム、内村鑑三が1470グラム、桂太郎が1600グラムと当時の男性の平均値を大きく上回っています。外国の例ではナポレオン三世が1500グラム、カントが1650グラム、ビスマルクが1807グラム、ツルゲーネフに至っては2012グラムもあったとされます。やはり脳の大きさと能力の間には密接な関係があるのでしょう。

 同じような大きさ・形状の脳を持った人間でない限り、誰もアインシュタイン夏目漱石にはなれないのです。
“天才は育つのではなく、最初からそのように生まれてくる”

【天才スペクトラム

 ここで注意しなけばいけないのは、大多数の人類が同じような脳を持っているのに対し、天才を含む著名人は突出して特異な脳を持っているわけではないということです。
 アルベール・アインシュタインと私たちの凡人の間を埋めるいくつもの脳がある。天才がいて、天才に近い優秀な頭脳があり、「すごく頭がいい」と言われるような人がいて「ちょっと賢い」人がいて、そして私たちがいるのです。
 何を言いたいのか――。

 要するに“頭のいい”人たちと私たちの間には、生まれながらの脳の大きさ・形として、乗り越えがたい差があるのかもしれないということです。そしてそれは連続体として天才と私たちの間に広がっているのかもしれない――。

(この稿続く)