「アメリカはどこに行くのか」③

アメリカはずっとアメリカ・ファーストだった】

アメリカ・ファースト」は新しい概念のように見えますが、口に出さなかっただけで、アメリカは今日まで一般してアメリカ・ファーストでした。ほかの国だって同じです。アメリカに限らず、自国の権益を最優先に考えない国はないのであって、左手で“取る”ために右手を“差し出す”ことはあっても両手を差し出す国などありえないのです。中でもハクトウワシを国鳥にするアメリカは、最も獰猛な時刻第一主義者でした。

 日本との関係に限っても、近いところで言えばプラザ合意(1985)――日本は円高を強要され、円相場はわずか24時間で20円も上昇、1年後には80円も値上がりするという残酷な仕打ちに会っています。
 1990年前後にはスーパー331条と呼ばれる懲罰的包括通商法で「不公正貿易国」扱いされ、数々の輸出制限をしなくてはならなくなります。その後も「オレンジ」「牛肉」みたいな個別の品目についてまでいちいち頭を下げさせられました。
 外交的には頭越しの米中和解(1971)で恥をかかされ、湾岸戦争イラク戦争に巻き込まれたかと思うと、対ロ制裁にも付き合わされる。そのたびに日本は煮え湯を飲まされ、大変な資金提供をさせられても感謝の言葉ひとつない、そうした苦汁を舐めさせられたのです。

 ただしこれまでのアメリカは無骨ではなかった。大統領が直接国や企業に脅しをかけたりマスメディアと喧嘩したりすることはなかった。
 時にはにこやかに握手しながら足で蹴ったり、右手で銀を渡して左手で金を奪うようなことをしても、表向きはいい人のフリをしていた――そこに諸外国の生きる道筋も残っていたのです。
 よく言われるようにアメリカ人との対決で“押し込まれている”“何か変だ”と思ったらとりあえず「ちょっと待て、フェアじゃないじゃないか」と言ってみると一度は立ち止まってくれる、考えてみてくれる、その間にこちらも態勢をを立て直せるというアレです。アメリカの正義を刺激すればよい、そうした側面がありました。

 しかし今やそれもポリティカル・コネクトスみたいなものですから捨てられていきます。すると残るのは暴力だけです。
「よこせ、さもなくば殴るぞ!」
「ほしいモンは欲しいんじゃ!」
 ツイッターで少し脅しただけで、フォードはメキシコでの工場建設を見直しフィアットクライスラーは米国内の雇用を確約しました。トヨタは投資を約束しロッキードも戦闘機の値下げを発表しました。しかし恫喝によって利益をむしり取る手法がどこまで通用するのか?

 少なくともスネ夫ジャイアンよりずっと豊かな生活をしています。

アメリカはずっと偉大だった】

 選挙中トランプの“Make America Great Again”に対してヒラリー・クリントンは「今さらアメリカをグレートにする必要はない。ずっとグレートだった」と言っていましたがそれは正しい見方です。
 少なくとも第二次世界大戦後、最も偉大な国家はアメリカ合衆国だったと言っても異論をさしはさむ人はほとんどいないでしょう。ではその偉大さの源泉とはなにか?

 もちろん軍事力や経済力が世界1位だからではありません。それは2位以下の国家を見れば明らかです。
 国内総生産で言えば2位は中国、3位は日本、以下ドイツ、イギリス、フランスです。軍事力の方は様々な順位付けがありますが、2位ロシア、3位中国、以下インド、フランス、イギリスといった感じになるでしょう。
 それぞれの国はその順位にふさわしい尊敬を集めていますか?

 アメリカが偉大なのは戦後70年間、それが擬制であったとしても、民主主義と自由、平等、平和の守護神として世界に君臨しようとして、しかも曲がりなりにもできた国はアメリカ合衆国だけだからです。
 世界に秩序をもたらそうとしたら、どんな場合もアメリカ抜きに何も考えられませんでした。
 民主主義や自由や平等を願う人々が、最後に頼りにするのがアメリカでした。

 高い理念を掲げて世界に関与し、そのために多くの犠牲を払おうとして実際に払う、それができるからアメリカ合衆国は“偉大”なのです。

「金を払わないなら軍を引き上げる」「プーチンとは気が合うから経済制裁を解く」「国境に壁を築いてメキシコに支払わせる」――そんなチンケなことを言いだす国家を、どう呑み込んだら尊敬できるのか。

 トランプは先日の記者会意見で、
「ロシアや中国、日本、メキシコなどすべての国が、今後は、これまでのアメリカのどの政権に対してよりもはるかに大きな敬意を払うことになるだろう」
と言っていますが、恐怖は抱いても敬意を払うことなどありえません。

 ところでなぜ、これまでアメリカはこうした高邁な思想を前面に押し出して政治を推し進めてきたのでしょう。ほかにそういった国はないのでしょうか、長い歴史の中で同じように正義のために戦ってきた国はなかったののでしょうか――そう考えるといくつか思い当たる国があります。

 かつてのソ連と現在の北朝鮮です。

(この稿、続く)