カイト・カフェ

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「アメリカはどこに行くのか」④

ロシア革命百周年そして主体思想

 テレビも新聞もインターネット上も(私の知る限り)誰も言わないのですが、今年はロシア革命100周年です。ソ連ソビエト社会主義共和国連邦)が生き残っていたら大々的にお祝いするはずなのですが、時代はほんとうに変わってしまったものです。

 さて1917年の2度の革命によってソビエト連邦が成立したとき、それを主導した思想は「マルクス・レーニン主義」という名でのちにまとめられます(もはやこんな知識も役に立たなくなった)。
 様々な概念の集合体なのですが中でも有名なのは「プロレタリア独裁」と「永続革命論」です。前者は労働者が中心とならなければ社会主義革命は達成できないというもの(現在の中国が「共産党独裁」を平然と掲げられる思想的背景)、後者は一国だけの社会主義では不十分で革命は全世界に波及されるべきものといったものです。
 ソ連は「社会主義」という大義名分に従って構成され、それを世界に広めなければ国そのものが成り立たなくなると定義づけてはじめられた国なのです。その方向は世界革命を諦め「て一国社会主義」を標榜するようになっても続けられました。

 そのソ連の指導のもと、1948年に生まれた朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)は、スターリン批判(1956)の際に他の社会主義国ソ連や中国)と袂を分かち、「主体思想」と呼ばれる特殊な(北朝鮮ではマルクス・レーニン主義の独創的な発展ということになっている)思想をもって独自の道を歩みはじめます。
 今でこそ主体思想は「悪の帝国=アメリカに対して、社会主義を守るために英雄的に戦う金一族を支える理論」といった感じになっていますが、もともとは民族の激しい独立性と反帝国主義を訴えるものです。

 両国に共通するのは、外政も内政もそれぞれの思想に強く縛られ、一方で放棄することは他方も捨てることにつながりかねないという点です。今の北朝鮮で言えば「アメリカ帝国主義との戦い」が亡くなれば金王朝も存在が危うくなるということです。その意味では中華帝国の復活を目指す習近平の「中国の夢」も同じかもしれません。「強い中国」に陰りが見えたら共産党独裁も危ういかもしれないのです。

アメリカの叫び】

 私はアメリカを偉大な国だと思っていますし尊敬もしています。しかし我が国がアメリカのようになればいいとは百万分の1mmも思っていません。あってもならなことです。

 アメリカというのは毎日43人が殺され、340人が強姦の被害にあい、900件の強盗事件が発生する国です。
 子どもは10秒に1人の割合で虐待されたりレイプされ3.6日に1人の割合で殺されている、毎年80万人が誘拐され、150万人が家出する(そのうち85%は何らかの虐待からの逃亡)。
 全アメリカ人の5人に1人が銃を持ち、そのうち25%が5丁以上の銃所有者。年間に372件もの銃乱射事件が起き被害者は1870人(うち死者は475人)。(事故を含む)銃による死亡者1万3286人。負傷した人の総数は2万6819人。この数字には銃で自殺した人は含まれていませんから、自殺者を加えたらこの数はさらに増えます(数字はすべて2015年)。
 15秒に1人、年間200万人以上の女性がDVの深刻な被害を受け、亡くなる女性は1日に11人(Wikipedia)。そして毎年のように人種差別に関わる暴動の起こる国、それがアメリカです。
 常に荒々しく危険で、放っておけば少数派や子どもは次々と殺され犯されてしまう国、人種や宗教が複雑に絡み合い、勝者と敗者、富者と貧者の差は途方もなく大きい国、それがアメリカです。

 そうしたアメリカでは常に自由や平等を叫び、民主主義を鼓舞し、人権を訴え続けないと国が保てない
のです。そして国内でそう叫び続ける以上、国際社会に対しても同じように大声で訴え続けなければならない――つまり社会主義ソ連主体思想北朝鮮と構造においては同じなのです。そして実際にそうしてきた。
 逆に言えば、外に向かって正義を訴えなくなったアメリカは滅びるしかないのです。
 

【トランプ革命】

 トランプ革命のひとつの側面は、アメリカを正義の呪縛から解き放とうというものです。
 もうアメリカは外国の人権問題や正義の話に首を突っ込まない、民主主義や自由・平等といった話もしない――具体的には、ロシアに関してクリミアもシリアも問題にしない、中国に関しても貿易や雇用の問題で譲歩するなら南シナ海も「ひとつの中国」も問題にしない――ということになります。

 内政は外政に連動しますから国内で自由や平等、平和や民主主義を叫ぶ声は当然小さくなります。不法移民とアメリカ国民、イスラムと非イスラム、男と女、大統領選挙であの嫌な女(ヒラリー)の味方になった者とそうでない者の間に、厳しく線が引かれます。弱者と強者、貧者と富者、少数派と多数派、民族と民族が生身で向き合い始めます。

 アメリカ合衆国が200年という歳月と何百万も命をもってつくりあげてきた「偉大なるアメリカ」が滅びていくのです。

(この稿、続く)