カイト・カフェ

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「9・11とアフガンの魔力」~20年目の9月11日に思ったこと 

 アフガニスタンは本当に不思議な国だ。
 1970年以降、平和だった時期はほとんどなく、
 国民は半世紀にわたって苦難の日々を送っているというのに、
 侵攻してきたソ連アメリカを撃退し、
 弱体化するだけの力を持っている。

という話。  

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(写真:フォトAC)

【あの日、何をしていたか】

 先週土曜日が20年目の9・11であることを忘れていました。
 現在の私は頭の中が農業カレンダーで、9月は白菜やダイコンの種を蒔く付きで、アメリ同時多発テロを思い出すようにはできていないのです。のんびりした日々です。

 翻って20年前の9・11はどうだったかというと、世界貿易センタービルへの旅客機衝突というニュースは日本時間の11日午後10時過ぎに入って来たと思うのですが、私はその時間、当時11歳の娘と8歳の息子と一緒にすでに床に入っており、翌朝も3時に起きて出勤ギリギリまで仕事をし、ニュースも見ずにそのまま学校に行ってしまったのです。
 そのころは1学年3~4クラス、全校児童700名ほどの中規模小学校の教務主任で、学級担任も学年主任もしていたのでとてつもなく忙しかったのです。事件は職員室の異様な雰囲気で知りました。

 平成13年、西暦で言えば2001年。経験的に言えば日本で年号、世界では世紀が替わるとき、時代の雰囲気はガラッと変わってしまいます。しかもこの年は千年紀まで変わる大変革で、だからこそアメリ同時多発テロは起こったのかもしれません。
 こののちアメリカ一国支配といわれた時代は終わり、合衆国の凋落、中国の台頭は明らかになって世界の構造はまったく異なったものに変わっていきます。

 あれから20年。アメリ同時多発テロに始まった米軍のアフガニスタン侵攻は、結局なんの成果も残さず、追いやったはずのタリバンが戻って政権を再構築しようとしています。その直後の20周年式典、ほんとうに皮肉なものです。
 

【アフガン1979-1989、ソ連侵攻の10年】

 アフガニスタンという日本にとって近くて遠い、なかなか情報の来ない国ついて知ったのは、恥ずかしながら30年以上前にかかった一本の娯楽映画のおかげです。
 「ランボー3 怒りのアフガン」(1988)です。

 シルベスター・スタローンの演じる主人公のランボーは、かつての上司トラウトマン大佐からアフガニスタンの反政府ゲリラに武器を送る仕事を頼まれますが、「もう自分の戦争は終わっている」と断ります。ところがそのトラウトマン大佐がアフガニスタン政府の秘密組織につかまってしまい、それを助けるためにランボーはアフガンに向かうのです。

 秘密組織を牛耳っていたのはアフガニスタン政府を支援するソ連軍の将校ザイセン大佐。ランボーはゲリラの手を借りながらかつての上司の救出に成功するものの、ザイセン大佐に厳しく追い詰められます。もはや絶体絶命――とその時、反政府組織「ムジャヒディン」が現れてランボーを助け、協力して反攻に出るのです。

 この映画から私が学んだのは次の2点です。
・ 映画のつくられた1988年当時、アフガニスタンには共産党政権があって、ソ連が直接的に支援していた
・ それに対して合衆国は密かに反政府ゲリラへの支援を行い、とくにムジャヒディンと呼ばれるグループとは深くかかわっていた

 ソ連が直接アフガニスタンに介入するようになった事件を「(ソ連軍による)アフガン侵攻」(1979)と言います。アメリカ・日本をはじめとする西側諸国のモスクワ・オリンピック・ボイコット(1980)は、それに対する抗議行動でした。
 ところがこの戦争は「ソ連ベトナム戦争」と呼ばれるほど泥沼化し、「ランボー3 怒りのアフガン」の翌年、ソ連軍が1万4000人もの死者を出した挙句に撤退すると、翌々年、国家としてのソ連自体が崩壊してしまいます。アフガン侵攻が崩壊を早めたのは確実です。
 

【アフガン1980-2001 内戦とタリバンの台頭の20年】

 ソ連軍が撤退したアフガニスタン国内では、ムジャヒディンを主軸とする内戦が繰り返されました。最終的にタリバンが権力を確立する2001年までのおよそ20年間が、アフガニスタン内戦期としてひとくくりにできる時代です。
 タリバンバーミヤンの石仏を破壊し、元ムジャヒディンの北部同盟マスード司令官を暗殺したのが2001年といえば時代の雰囲気がわかります。

 その2001年9月11日、ウサマ・ビン・ラディンに率いられたテロ組織アルカイダアメリ同時多発テロを成功させ、そのビン・ラディンをかくまったタリバンアメリカ軍に攻撃されます。「テロとの戦い」の始まりです。
 

【アフガン2000-2021 アメリカの凋落、タリバン復権

 これについては多くを説明する必要はないでしょう。アメリカ史上もっとも長くかかった戦争と呼ばれた「テロとの戦い」は、約7000名の将兵の命と、日本円にして880兆にも上る戦費を犠牲にして、何も得ることなく終わりました。
 そのあいだに合衆国でシェールオイル革命がおこり、産油国となったアメリカは中東・アラブに関わる意欲を失ってしまったのです。あとは中国に、市場と優越を奪われないようにするだけです。
 

【アフガン2021- 中国の責任】

 アメリカが去った後のアフガニスタンに対して責任を持つのは、国境を接する中国でしょう。一帯一路政策の重要な拠点ですから手を伸ばしてくるのは必至です。しかしソ連アメリカ合衆国というふたつの巨大国家を弱体化させたアフガニスタンです。ここに手を出して果たしてうまくやっていけるものでしょうか?

 アフガニスタンと国境を接する新疆ウイグル自治区には多くのスンニ派イスラム教徒がいます。タリバンと同じ宗派の人々です。宗教と政治の関係は一筋縄ではいきませんが、中国のつくろうとしている新シルクロードを西側から、やがてイスラム思想が大量に流れ込んできます。それを遮断してくれたアメリカ軍はもういません。
 アフガニスタンの行く末を、今後も注意深く見ていきたいと思います。