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「普通の人間が特別な状況にあった」~モンスター:津久井やまゆり園事件の話④

 相模原事件の植松容疑者2月に措置入院になった際の診断名は、NHKによると「大麻精神病」や「妄想性障害」ということになっています。ともに強い妄想を伴うもので、衆議院議長にあてた手紙のことを考えるといかにもそんな気がしてきます。問診の際もおそらく強いこだわりが見られたのでしょう。措置入院というのは行政が強制的に入院させるものですから、かなりの確証があって行われたものだと思われます。
 ところがわずか2週間後、症状は消え、「あの時はおかしかった。大麻吸引が原因だったのではないか」と内省する様子も見られたために退院となります。その後2回に渡って通院するのですが、そのとき出された診断書には「抑うつ症状」とあります。
「妄想性障害」と「抑うつ症状」――よくわからない感じです。

 一般に「〜障害」と名の付くものは、例えば身体障害のように不可逆(治らない)であると考えられます。
 香山リカ医師が「自己愛性人格障害などの精神疾患でもない」というのは、“自己愛性人格障害にも見えるがそうでない面も見られる。障害において症状が消えたり現れたりすることはないから彼は「自己愛性人格障害」ではない”といったほどの意味です。
 ただし精神障害のなかには薬物投与やカウンセリングによって寛解もしくは完治するものもあって、「妄想性障害」は抗精神病薬がしばしば使われる、いわば病気です。完治することもあれば、症状が重くなったり軽くなったり揺らぐ場合もあります。

 植松容疑者が2月に措置入院となったときどういう治療が行われたのかわかりませんが、とにかく彼は治った――少なくとも「自傷他害のおそれがない」(退院の条件)と判断された――ので退院した、そう考えて間違いないでしょう。、そしてぶり返した――少なくとも筋としてはそれがいちばん通っているような気がします。

 さまざまな記事を読んでいると子どものころはとても良い子だったようです。それは間違いないでしょう。大学に入ってからも一定の友だちがいますから人間関係も良好だった時期が長いようです。真面目に教員を目指していた様子もうかがえます。
 その一方で、教員を目指しながら刺青を入れるというのはどうにも理解しがたいところです。報道によれば刺青を入れたのは教育実習中だったと言いますからこれも正常な感じがしない。学校の教師か刺青の彫り師かというのは、普通の学生の進路選択としてはありえないことですが彼は迷った。やはり奇異な感じは否めません。

津久井やまゆり園」の職員だった頃の彼を“感じのいい好青年”としてのみ記憶している人がいます。近隣の方でした。それもひとつの真実でしょう。しかし“重度障害者は安楽死させるべきだ”と言って結局辞めざるを得なくなったのも彼です。ここにも揺らぎがあります。
 しかしその揺らぎは次第に妄想の側に大きく傾き、そして彼は事件を起こす――。
 送検される車両の中でのあの奇妙な薄笑い、異常な仕草、もはやあれは妄想の中での勝者の高笑いとしか思えないのです。