「発達障害に関わる用語の問題」〜発達障害に関わる用語が定まらない件について  

  昨日お話ししたNHK発達障害〜解明される未知の世界」の中で、発達障害の説明として「ASD(自閉スペクトラム症)」「ADHD(注意欠陥・多動症)」「LD(学習障害)」と分類して下のように重なり部分も含めて図で示していました。

f:id:kite-cafe:20191207220916j:plain

 その中で問題になるのは「ASD(自閉スペクトラム症)」の部分です。ここの表記が安定しません。

 もちろんADHDも「注意欠陥多動性障害」「注意欠陥多動症候群」「注意欠陥多動症」等表記の振れはあるものの根幹の「注意欠陥多動」は変わりありません。LDについては「学習障害」以外の表現はないと思います。
 ところが図のASDの部分については、これが今回のように「自閉スペクトラム」だったり「自閉スペクトラム」だったり、「自閉スペクトラム症候群」だったり「高機能自閉」だったり、そもそも図のその位置にあるのがASDではなく「AS(アスペルガー症候群)」だったり「PDD(広汎性発達障害)」だったりと、まったく落ち着かないのです。

 日曜日の放送でも、スタジオでは「自閉スペクトラム症」としているのに読者からの投書では「私は二十歳の時に広汎性発達障害と診断されました」といった形で出され、しかも何の説明もなく何の抵抗もないまま、ふたつは同じものとして通り過ぎてしまう――。
 司会の有働アナウンサーはこの問題で何度も番組をやっているので相当に詳しく、だから抵抗なく話を進め、ファックスを送った広汎性発達障害の当事者も本質的にこの問題のプロですからすんなりと通過してしまう。しかし初めて接する人たち、あるいは学習をしはじめたばかり人たちにとって、「自閉スペクトラム症」と「広汎性発達障害」が同じものとして語られるのは相当に抵抗ないしは混乱があるのではないでしょうか。少々心配になります。

 と言うのはかくいう私が、二十年ほど前にこれらの用語の分からず、無駄に時間を費やした経験があるからです。当時はこれに重ねて「高次高機能広汎性障害」だとか「微細脳障害」だとかいうのもあってほんとうに大変だったのです。
 そもそも「自閉症」というのからして分かりません。

 

【「自閉症」はなぜ「自閉」なのだろう】

自閉症」という言葉を、私はおそらく高校生のころに聞き知ったと思います。そのころ芥川賞をとった古井由吉の「杳子(ようこ)」という小説の主人公が「自閉症的」と表現されたからです。
 のちに読み直すと、それはまさにアスペルガー症的で魅力的な少女なのですが、覚えたての「自閉症」という言葉はなぜかすぐに魅力的な主人公から離れ、うつ病的なものとして私の中に定着してしまったのです。なにしろ「自閉」ですから。 “自らに閉じこもってしまうような病気”という印象が勝ってしまうのです。

 教員になって初めて会った自閉症の子がギャーギャーと騒いでばかりいる子で、とても内に籠るタイプでなく、そこで改めて「自閉症」についてしっかりと勉強し直して理解したものの、“内に籠る”という印象を変えるのはなかなか時間のかかる作業でした。

 Wikipediaなんかを読むと、最初にこの障害の研究をはじめたレオ・カナーが、
「聡明な容貌・常同行動・高い記憶力・機械操作の愛好」などを特徴とする一群の幼児に対し、統合失調症精神分裂病)の一症状を表す用語である「自閉」という言葉を用い、「自閉症」(オーティズム)と名づけた」
ということですが、「オーティズム: “autism”」の頭の部分“aut(o)”は『「みずから,自己,自動(的)」の意の結合辞』だそうで、おそらくautarchy(絶対主権・専制政治自治)とかautomatic(自動・自動式の・機械的な・無意識的な)と繋がるものです。
 つまり完全に独立して周囲の影響から免れているといった共通性を持っているのです。
 これに「自閉症」という語を当てた人は、やはり特殊な印象に縛られていたのでしょう。
 大雑把に言って二つに一つなら、自閉症の人たちから多く感じるのは、内に籠る暗さよりも独立覇気といった一種の気高さです。「自閉」にはやはり無理があります。しかしだからと言って「孤高症」といった新たな名前をつけても、それでしっくりするような気もしないのですが。

 

【では、とりあえずどうしたらいいのか】

 私が正式に「アスペルガー症候群」と診断された子どもと出会ってから20年になります。その間ずっと自閉症に関わる用語は統一されずに来ました。それはこの分野の研究があまりにも若いからです。
 自閉症研究の創始者であるカナーとアスペルガーはともに1940年前後に主たる著書を出した人ですが、アスペルガーが再評価されてカナー型の自閉症と同じ脈絡で注目されたのはわずかここ30年余りのことです。つまり歴史の浅さのために、研究者の判断や分類がまだ定まっていないのです。
 まったくド素人の私でさえも、右から左に色合いを変える印象の「自閉スペクトラム」より、東西だけでなく南北方向にも多様性があるという印象の「自閉圏」という言い方を好みます。私を含めて、そうしたこだわりを持つ人がいなくなるまで、用語の問題は解決しないでしょう。

 しかたがないので近接の言葉はすべて覚え、何が出てきても対応できるようにしておくしかないのかもしれません。

 なお、 NHKスペシャル 発達障害 解明される未知の世界 5月21日 の動画がYoutubeにありましたのでリンクを張っておきます。興味のある方は、見てみてください。