カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「学校給食の話」①

 7月9日の土曜日にWebサイトの方でJBpressの『給食の「食べ残し」はどうすれば減らせるのか』を扱って、「結局、食べないのはわがままなのだから教師たちは頑張って食べさせろ」みたいな記事を書いたのですが、その発売中の『週刊新潮』(2016年7月14日号)に「ズワイガニから松坂牛まで 豪華すぎる学校給食のメニュー一覧」という記事が出て“ああその視点忘れていた”とちょっと傷つきました。
“傷ついた”というのは、「ものすごくおいしいのに(子どもたちは食べない)」ということを書くべきだったのに気づかなかったからです。

 上記の『週刊新潮』の記事というのは、
 いま学校給食が、劇的なまでに美味しくなっているのをご存じだろうか。(中略)かつての学校給食は、不味い食事の代名詞と言っても過言ではなかった。それがここ数年、急激に変貌を遂げているのだ。
から始まる特別読み物で、具体的な「豪華すぎる学校給食のメニュー」がいくつも挙げられているのです。
 例えば、
 長崎県佐世保市では、特産のふぐをつかった「ふぐの唐揚げ」や「ふぐ雑炊」
 三重県松阪市では、松阪牛が献立にふくまれている。

 北海道では「いくら丼」。鳥取県では「ズワイガニ」が一人につき一杯。
 兵庫県には「松茸ごはん」を提供した学校まである。
 また、千葉県柏市柏の葉小学校では、『ミシュランガイド』で一つ星を獲得している日本料理店「鈴なり」とコラボレートした給食が提供されたこともある。
 といった調子です。そのほか、
 東京都足立区の「小松菜のキーマカレー」「ビスキュイパンにハンガリアンシチュー」(?)「麦ごはん、肉ジャガ、わかめのポン酢あえ」
 大分県の「大分鶏にいた丼」(大分トリニータのダジャレ)、

 長野県塩尻市の「コンコンコロッケ」(地元の民話でキツネが有名)、
 福井県越前町の「えち膳の日(もちろんダジャレ。《特産の油揚げを使った》にゅうカレー、有機玄米ご飯、イカゲソから揚げゆかり風味、小松菜とわかめの梅肉あえ)」(2008年地産地消給食等メニューコンテスト文部大臣賞受賞)
といった有様です。

 私にとっては日常でしたので気がつきませんでしたが、学校給食から離れて久しい人たちには驚きのメニューでしょう。
 ついでに驚かせると、私の勤務していた学校でも近隣の方々が大量の松茸を持ち込んでくださり、学校給食が松茸尽くしになったことがあります。あまり多すぎたので厚切りにしないと処理しきれず、おかげで風味だけでなく噛んだ松茸の肉感まで味わうことができました。

 思えば私が子どもの頃はとんでもないものを食べさせられていました。
 カチカチのコッペパンに伝説の脱脂粉乳。ともにアメリカ国内で過剰生産となった小麦と乳製品を買い取って始まったものです。子どもの歯では噛みきれないパンというのもすごく、脱脂粉乳のまずさは表現のしようもありません。牛乳を水で薄めてから温め、よせばいいの多少の砂糖を入れて中途半端に甘くし、さらに強烈なミルク臭が鼻を衝くように未知の何かが入っているそんな感じです(と言ってもまだそのまずさを説明したことにはなりませんが)。
 ただし学校生活で何の取り柄もなく、まるでパッとしなかった私は脱脂粉乳をお代わりすることでクラスに貢献し、給食の時間だけは英雄扱いで感謝されていました。

 おかずは――これがほとんど覚えていないのですが、おいしかった方で1年に一回だけ出たデザートのフルーツ・ポンチ(私は当番のときこの食管を廊下にぶちまけてしまい、クラス全員に目の敵にされたことがあります)、切り口を見るとハム1に対してコロモ6くらいのハムカツ、たまに出てコッペパンに塗ったピーナツバター程度。
 大好きなカレーは肉の代わりに缶詰のサバなんかが入っていて台無し。今や高級食材のクジラ肉は竜田揚げで出てくるのが石かと思うほどに固い。脂身の部分だけは柔らかいのですがそこだけ直接に噛むととんでもない味が口内に広がって吐き気が上がってくるという代物でした(ああ思い出しただけでも吐きそう・・・)。
 そのくらいすごかったのです。

 それから20年近くたって教員となり、改めて給食を食べる立場になったころ(1980年代)にはあの恐ろしコッペパン脱脂粉乳もなくなっていました。代わりに普通のビン牛乳と食パンが出るようになっていたのですが、だからといって給食全体が素晴らしくおいしくなったわけでもありません。

 栄養価中心、味や好みは二の次三の次でしたから、子どもがとてもではありませんが食べられそうにない「レバーのから揚げ山盛り一杯」みたいなものが平気で出てきます(私は内臓系が苦手なので心の中で泣きながら完食しました)。
 経費を惜しんで学校給食を一括単一センター制にした某地方中堅都市では、数が多すぎて3回に分けての発送。最初の給食がセンターを出ていくのが午前9時半でそれから延々3時間にわたって保温庫で温められるのですから旨いわけがない(これは20年前の大阪府堺市のO157事件以来改められた)。
 そんなこんなを経て、今日、やっと学校給食はほんとうにおいしくなったのです。

【参考】「学校給食」(千葉県学校給食会)

(この稿、続く)