カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「憧れのフランスとノスタル爺の繰り言」〜給食にみる”フランスは見習うべき国なのか問題”

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  Yahooニュースを見ていたら『フランス人の「朝・昼・夕食」が日本とここまで違う理由 妻が食事作りに忙殺されることはない』という記事が出ていました。元記事は講談社の「現代ビジネス」です。

 ざっと流し読みで終わらせようと思ったのですが、
 日本でもフランスでも食事作りは女性の役割となっていることが多いが、フランス女性はなぜ仕事と食事作りの両立が上手なのかを考えていきたい。
という一文が目に飛び込んできて思わず身を乗り出すような気持ちになりました。これだけ人材不足が叫ばれる中、家庭における女性の働き方改革も重要な案件だからです。

【フランス人の食生活】

 そこでしっかり読みながら主な内容を拾い出すと――。
 女性の就業率約9割のフランスの食事はとてもシンプル。
 朝食は、フランスパンとコーヒーが基本だ。
 コーヒーにミルクを加えれば、カフェオレが出来上がる。アメリカやイギリスのように、朝から卵にベーコン、ソーセージなどを食べることはない。
 え?

 家庭によってはお皿を使わず、紙ナプキンや布ナプキンの上にバゲットを乗せいただくこともある。食後の洗い物はコーヒーカップだけ。食洗機にコーヒーカップを入れて朝食が終了する。
 ここだけの話だが、布ナプキンは数日間にわたって同じものを使用するため、洗濯物が出るわけではないことをお伝えしておこう。
 お。

 お昼も軽めだが、学校の給食はフルコースをいただく  野菜や肉・魚はたんぱく質などの栄養をきちんと取れるので親としてはありがたい。給食費は1食1ユーロから7ユーロ程度、家庭の収入に応じて負担するしくみとなっている。
 うん。

 夕食でもほとんど料理はしない  たとえば野菜スープとチーズ、キッシュとサラダ、パスタやピザで簡単にすませることが多い。肉の加工食品も豊富でパテやハムなどのテイクアウトの食材もフル活用する。
 ハァ。

 結局、フランス人の普段の食事は、時間のかかる料理をすることはなく、品数も少ない。「妻が食事作りに忙殺されることはない」といううらやましい状況なのだ。
・・・・・・

 これは羨んでいい状況なのでしょうか?
 これが仕事と食事作りの両立が上手ということなのでしょうか?

【フランスは学校給食もフルコースなわけ?】

 さらに言えば給食費は1食1ユーロから7ユーロ程度」は日本円で130円から910円程度ということになりますが、日本の学校給食は月額4323円(2017年平均)、一食当たり190円から220円といったところです。貧困家庭は就学援助でカバーされますから、おそらく日本の方が安いと思われます。

「お昼も軽めだが、学校の給食はフルコースをいただく」も「フランス 学校給食」で検索するとかなりヒットしますが、だいぶ様子が違います。

  • 子連れで日本からフランスに来て一番面食らうのは、昼休みは家で食べるのが基本!ということではないでしょうか。
  • フランスでも、学校給食はあります。cantineといって、給食室で食べます。しかし、大規模な給食室が備わっている学校でもない限り、給食室はこじんまりしています。そこで食べられる人数は決まっていますから、共働きの家庭が優先されます。
  • 給食室もそんなに広い部屋が用意されているわけではありません。(中略)そこで、どうやってやりくりするかというと、2回転、3回転させます。(中略)子供をグループに分けて、何度かに分けて給食の時間をとります。
  • 1回の食事にかけられる時間が少なくなるから、子供たちは急いで食べなくてはなりません。さらに、おかわりをしたくても、次の回にも残しておかなくてはなりませんから、1回目のグループでは特に満足におかわりをもらうこともできません。

(以上 、「日日家庭のフランス生活」より)

 なにか全然話が違います。

 「フルコース」については、別の人に聞きましょう。
 食事構成、フランス料理のコース料理と同じですよね。
 一品ずつ運ばれてくるわけではないし、メニュー構成数はクラシックなフルコース(肉と魚の両方が提供されたり、肉料理の後にソルベが出されたり、アミューズがあったり…)程ではないですが、一応ちゃんとしたコース料理になっています。

 フランスの給食ってコース料理!すごい! って思ってましたが、日本の給食も品数を数えてみたら同じでした。日本も食文化は大事だと考えている国の一つなので、給食の構成にも力を入れていたんですね。
(以上、「フランシウム87〜南フランスに住む日本人学生が発信するブログ」より)

 なんだ同じじゃないか、違うのは全員が食べられるわけではないこと、給食費が(貧困家庭でなければ)高いということ、その程度です。

【子どもたちの栄養状態】

 学校給食はほぼ同じで朝晩が恐ろしく簡素となると、フランスの子どもの栄養状況はどうなっているのでしょう?
 これについてもネットで簡単に情報が手に入ります。
 若い人たちの食形態が変わってきていることも指摘されており、15歳から19歳までの人たちを対象とした調査によれば、21%の人が朝食時に、18%の人が夕食時にコーラを飲むようになっている。先程述べたgrignotage(引用者注:間食・おやつ)については、5人中2人が午前中に砂糖の入ったお菓子を食べている。専門家は、フランス人の4分の1が24歳までに悪い食習慣を身につけてしまっており、将来アメリカのように肥満傾向が一層問題になると危惧している。
「フランスの学校給食と食に関わる諸問題」

 ここでも何だ問題だらけじゃないか、と私は思うのです。

憧れのフランスとノスタル爺の繰り言】

 最初に揚げた「現代ビジネス」の記事の結論は、しかし私とは全く異なるものです。  日本の朝ごはんをバゲットとカフェオレにすると高くつく。さすがにご飯とふりかけで食べるわけにはいかないが、夫に家事をやるように頼むのではなく、家事自体を減らしていく工夫が必要なのかもしれない。  少し前に土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』を読んだ。一汁は具だくさん味噌汁。一菜は漬物を指している。フランス人の食事感に近いものを感じた。自分の時間、家族の時間を作るという意味で、フランス人を見習っていきたい。

 元記事を掲載した講談社も転載したYahooも、本気でそんなことを支持しているのでしょうか?

 ちなみに「一汁一菜」の“一菜”は漬物のことではなく、総菜(おかず)一品のことで漬物は別にカウントします。また土井善晴さんの「具だくさんの味噌汁」も、例えば”キャベツをたんまり入れましょう”といったものではなく、何種類もの食材をたっぷり入れますからそう簡単な料理ではありません。
「一汁一菜でよいという提案」 土井善晴さんがたどりついた、毎日の料理をラクにする方法の写真参照)

 それにしてももはや「特に朝食はしっかり食べましょう」とか、「学校給食は残さず食べましょう」とか、「バランスの良い食事を摂りましょう」とかいった考え方は古いというのでしょうか? ・・・と、昭和のノスタル爺は思うのであります。

(参考)

kite-cafe.hatenablog.com