カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「学校給食の話」④(最終)〜給食はなくならない

 1歳7か月になった孫のハーヴを見ていてつくづく思うのは、この時期の子どもはまだやっていることは三つだけだということです。
 寝て、食べて、遊ぶ。
 だからしつけもこの三点に絞られるのが普通です(英語を教えるなんてことをやっていれば別ですが)。

 そうなると小学校に上がってもなお好き嫌いが山ほどある子というのは、きちんとしたしつけを受けてこなかったのではないかと疑いたくなったりします。
 もちろん発達障害のある子の一部にはひどい偏食のあることがあり、あるいは母親に料理のスキルが全くないという場合もどうしても好き嫌いの多い子は育ってしまいます。しかし普通は何らかの工夫をしてくるものです。

 以前、週に3日給食、2日は弁当という変則給食の保育園の園長さんに聞いたのですが、ブロッコリを全く受け付けない子がいて、
「食べられるようになるといいですね」
と連絡帳に書いたら、次のお弁当の日、巨大なブロッコリにマヨネーズをかけたものがドンと入っていて、
「食べさせられるもんなら、やって見な!」
と言わんばかりだったそうです。・・・親の苦労も分からないわけではないですが、任せられる保育園もたまったものではありません。

【スカ弁の話】

 息子のアキュラが子どものころボーイスカウトに入っていて、そこで覚えたのが「スカウト弁当(通称:スカ弁)」です。
 どういうものかというと要するにおにぎりのみ、おかずは持ってきてはいけないというものです(ただし中には何を詰めてもよい)。保護者の負担をできるだけ軽くするという意味もあったのでしょう、たいていの場合「集会の持ち物」には「スカ弁」の一語がありました。なかなか便利なものです。

 それにヒントを得て私が学校で始めたのが、当時勤務していた小学校の名前を取った「田中(もちろん偽名)弁当」、おにぎりのみ(おかずは持ってきてはいけない)です。
 遠足のように楽しい行事ならいいのですが、社会見学や観察会などだったりするとゆっくり弁当を開く時間も場所もなかったりするので、できるだけ簡便にということで提案したのです。
 ところがこれが保護者から大絶賛!
 あるお母さんなどは私の顔を見るなり、
「先生! すごい! いい仕事したね!」
と上から誉めてくれたりします。
「あれ、ほんとうに助かります」
「子どももすごく喜んでます(ホントかよ?)」
と評価の嵐です。
 長い教員生活で一番讃えられた仕事だったのかもしれません(情けない)。
 親の手抜きに手を貸すと本当に誉められます。

 ところでこれだけ負担を軽くしてあげたのに、
「田中弁当ってどこに売っていますか?」
という問い合わせがあったのには驚きました。
「学年だより」くらいしっかり読んでくださいよね、といった話なのですが・・・。

【かようにお母さんたちは弁当が嫌い】

 全国的に見ると学校給食の実施率は小学校で99.1%(内、完全給食は98.5%)、中学校で88.1%(内、完全給食82.6%)ということになっています(H27年度:文科省学校給食実施状況等調査)。つまり小学校ではほとんどで行われているのに対し、中学校では5校に1校の割で完全給食を行っていないことになります。私の住む地域では国立大学の付属中学校がそれにあたります。

 都会の付属と異なり、田舎はそれほど人気があるものではありません。交通の便もよくないし、何となく「勉強のできる子だけが行く学校」という雰囲気で敷居も高く、何十年も前からずっと定員割れが続いていたのです。

 10年ほど前、当時勤めていた小学校で深刻なじめ=不登校問題があり(いじめが深刻だったというのではなく児童・保護者と学校の関係が深刻という意味)、打つ手がないまま6年生の秋まで進んでしまったことがありました。問題解決の糸口も見えずこのまま進学させても地元の中学校に通い続けられる気もしません――そこで思いついたのが付属中学への進学です。

 どうせ定員割れです。多少成績が低くとも滑り込まないとも限りません、というかほぼ入れる――話をすると保護者も本人も大乗り気でそれで明るい希望が見えてきたような気がしました。
 ところが――、
 ふたを開けたら応募者が例年の2.5倍、競争率およそ2.4倍にもなっていたのです。私の知る限り40年に渡って定員割れしていた学校がですよ!
 おかげでその子は不合格。「中学校落ちた、付属死ね!」みたいな話です。

 何があったのかと言うと、その年から募集要項に「希望者には弁当を斡旋します」の一文が加わったのです。それを読んで、
「あら、お弁当を作らないでいいならやりたいワ」
と考えたお母さんがいっぱいいたのです(たぶん)。

 かようにお母さんたちは弁当が嫌いです。
「朝夕二回の食事だけでも大変なのに、お弁当のことまで考えるなんて絶対にイヤ!」
「だってお弁当は入れられるものに制限があるじゃない、焼きそばなんて持たせられないでしょ?」
「他の人と比べられるなんてまっぴら!料理下手がばれる」
キャラ弁みたいなのを毎日作れる人だっているじゃない。そういう人と一緒にしないで!」

 運動会や遠足も1日延期なら許しても2日延期は容赦してくれません。
「三日連続のもお弁当なんて、そんなのなくネ?」

【町長は殺された】

 平成4年埼玉県の庄和町(現在は春日部市に吸収合併)の町長が学校給食の廃止を打ち出し、全国を巻き込んだ大論争になったことがあります。表向きは学校と家庭の役割分担を明らかにし、子どもの食事には親が責任を持てということでしたが、おそらく財政難だったのでしょう、廃止によって浮いた予算で外国人英語指導助手を雇ったり子供会館を建設したりといったことを考えていたようです。ところが保護者の反発は想像を絶していました。
 おまけに全国から“識者”“専門家”が押し寄せて、「子どもの健康の責任をだれが取るのか」といったお門違いの突き上げが繰り返され、その騒動の中で町長が急死。
 給食廃止が立ち消えになったかと思ったら十数年後には町までなくなってしまい、この話は歴史の中に埋もれて行きました。

 学校の先生の中には同じ論理から給食を廃止した方がいいと思っている方もおられます。“メシの心配や栄養管理まで学校の世話になるな”と。
 給食がなければ給食指導もなく、児童生徒を叱ることもぐんと少なくなります。配膳下膳のないぶん時間的にも余裕が出て、子どもも遊んだり休んだり、教師もゆっくりとできます。そうした面から「給食はなくてもいいかな」と思っている先生もいます。
 外部には久しぶりに給食の様子を見て、皆がそろって同じものを食べる様子から刑務所や軍隊を連想する人もいます。これって、画一教育ですよね?
 自治体によっては調理場運営の負担に耐えがたい市町村もあるでしょう。

 しかし「給食廃止」と聞くだけで気絶しそうなお母さんが山ほどいる限り、学校給食は絶対になくなりません。
 ですよね?

(この稿、終了)