「教員不祥事の憂鬱」e〜不祥事研究のススメ

「教員不祥事」で検索にかけ各都道府県教委の取り組みをみると、どこも非常に苦労していると同時に手詰まりな感じがうかがえます。

 不祥事の起る原因に関する分析も、

規範意識の欠如」「想像力の欠如」「教師のおごり」「社会常識の欠如」「暴力に対する親和性」「組織力の弱さ(教員を支える仕組み、危機に気づく仕組みの欠如)」「性格上の問題(盗癖・ギャンブル等依存症・静的嗜好)」「ストレスに対する対応力の弱さ」等々。

 分からないわけではありませんが、これだけ研修をして話し合いをさせ、子供だましみたいな誓約書(「私は決して違法行為は致しません」・・・)を書かせ、なおかつ「規範意識の欠如」「想像力の欠如」「教師のおごり」「社会常識の欠如」「暴力への親和性」となると「教師はどんだけバカか?」ということになりかねません。実際、世間では本気でバカだと思っている人もいます。

 私は、そもそもそうした分析のしかたからして間違っていると思うのです。非常に情緒的で文学的です(科学的ではないという意味)。

 分析という以上、例えば「暴力に対する親和性」というなら体罰以外の暴力事件の発生頻度、あるは粗暴犯として検挙された教員数を提示する必要があります。「社会常識の欠如」というなら「常識テスト」のようなものを作成して実際に教員が非常識なのか検証する必要があるでしょう。しかしそんなことは誰もしない。ただ「非常識な事件が起こる以上は常識がかけているのだろう」そんなふうに考えて書いたにすぎません。

 もっともそんな小理屈を言わなくても、原因とされる事柄のいくつかが完全に間違っていることを、私は一瞬にして証明することができます。それにはこう言えばいいだけだからです。

 教員の「規範意識の欠如」「想像力の欠如」「おごり」などが原因だとしたら、なぜ女性教員は男性教員の1割程度しか不祥事を起こさないのか。

 教員数は男女ほぼ同数なのに、不祥事を起こすのは圧倒的に男性教師なのです。(*1)

 なぜ男性教師ばかりが不祥事を起こすのか――そのひとつをとっても科学的に研究するに値します。しかし実際には誰もしません。地方自治体も政府も、研究機関もどこもやっている様子がありません。(*2)

 私が不思議に思うのは、児童生徒の指導に際してあれほど好んで行うケース・スタディを教員不祥事に対しては全く行わないことです。

 数年前に私の近くで起こった校長の万引き事件など(誤解を恐れずに言えば)素晴らしい題材で、その成育歴や教員としての業績、かつての同僚からの評価、現任校における評判、家庭状況およびその変化、人間ドッグの結果、本人からの聞き取りおよびその検証と、ありとあらゆる方向から「なぜ彼はそれができたのか」「なぜ彼はそれから逃れられなかったのか」――その分析をすればよかったのです。そうした研究の蓄積から何かが見えてくるはずです。

 一方、統計的な技法をつかって、どういう人がどういう状況で不祥事を起こしているのか、起こしやすいのかといった研究も必要でしょう。ただしこれは国レベルでないとできない仕事です。

 教員不祥事はメディアの扱いが大きいのでものすごい数があるように思われていますが、実際にはそんなにたくさんあるわけではありません。市町村はもちろん都道府県単位でも統計的に処理するには数が少なすぎます。全国的な調査でなければ分析しきれないでしょう。

 私は教員不祥事の多くがストレスからくる判断力の低下、判断の遅れが原因だと考えています。

 盗撮だの万引きだの、確かに彼らにはそうした性行があった。女子高生のスカートの中身への関心だとかスリルに対する親和性だとか目の前のモノに対する欲望だとかがあった、しかし常識の範囲で抑えられていた。それは普通の人間なら誰しも持っているものと同程度の欲望であって、強いて無理やり抑えていたというほどのものでもない。しかしある瞬間、なにかのきっかけでタガが外れてしまった。自分がしてはならないことをしているという判断ができなかった(正確に言えば、遅れた)、そう思うのです。

“魔がさす”というのは「悪魔が心に入りこんだように一瞬、判断や行動を誤ること」をいいますが、その瞬間に起きているのはまさにそういうものだったと推測します。(*3)

 しかしそれを証明することは今の私にはできません。ケース・スタディにしても統計処理にしても私の手の届く範囲にはないからです。

 けれどそれは誰かがしなくてはならない。

 ただ果てしなく研修をして反省を求めても、状況が良くならないことは明らかです。これまでだってしてきたのですから。

*1 

 ほんとうは女性教師たちは怒らなくてはならないのです。

「いい加減にしてください! なんで私たちまで一緒になって研修漬けにならなくてはならないんです!? やってるのはみんな男の先生ばかりじゃないですか! 体罰ワイセツも飲酒運転も私たちはしない。それなのに一緒にされて「規範意識の欠如」「社会常識の欠如」などと言われてはかないません! やるんだったら男の先生だけ集めて、死ぬまで研修させればいいんだワ!」

*2

 平成24年衆議院本会議で、自民党木村太郎議員(ジャーナリストの木村太郎とは別人)が「教員の不祥事に関する質問」をしていて、その中で「懲戒処分のそれぞれにおける年齢別の数、また教職員組合の教員の比率を示されたい。更に、その結果に対してどのように分析しているのか」と訊ねたのに対し、当時の 菅直人総理大臣の名前で次のような答弁が返っています。

『懲戒処分等調査においては、「わいせつ行為等」に係る懲戒処分の被処分者についてのみ年齢階層別の統計をとっているところ、平成二十一年度では、二十歳代が二十六人、三十歳代が三十四人、四十歳代が四十七人、五十歳以上が三十一人となっており、四十歳代の被処分者数が最も多くなっている。被処分者が職員団体の構成員であるかについては調査していない』

 つまり政府でも教員不祥事に関する総合的な分析というものは行っていないのです。

*3

 なぜ男性教諭だけに“魔がさす”のかという問題は残ります。これについてアイデアがありますが、長くなるので改めてということにいたします。

                                      (この稿、終了)