一か月検診は実質的に初めての「お出かけ」です。ハーヴは精一杯めかしこんで(と言っても知り合いからいただいた新しい服を着て)出かけます。
生まれたときのことを考えてシーナは相当の覚悟をして出かけたのですが、診察室から戻ってくると反応も運動も問題なしだったと膝から崩れ落ちるような感じで報告してくれました。もちろん“今のところは”という条件付きです。
ハーヴは本番に強いタイプらしく、ウンチが出ないこともあってぐずっていたのが直前に出してとてもいい感じで受診できました。お医者さんや看護師さんから計6回も褒められたとシーナは跳び上がって喜んでいます。しかしお医者さんたちは、おとなしい子には「いい子だね」、泣き止まない子には「元気だね」と言いまくっているのに決まっています。そんなに特別なことではない。とは言え、不安をいっぱい抱え込んで診察室に入ったシーナが、褒められた回数を数える気持ちもわからないではありません。
週末、今度は訪ねてきたエージュを誘いシーナとハーヴを車に乗せ、近くの神社に“プチお宮参り”にいきました。少しずつ陽の光や風に当て始めるころです。
本殿にお参りした帰り道、3歳くらいの女の子を連れた年配の女性に会いました。樹木希林似のお祖母ちゃんで、「こんにちは」と声をかけると「おや、おや、おや」と言いながら女の子の手を引いてこちらに駆けつけてくれます。しゃべり方や仕草まで樹木希林そっくりです。
実は二十数年前、シーナのお宮参りの時も同じようなことがあって、そのときの女性は「ちょっと待っていて」と言いながら慌てて家に駆け戻り、それから口紅と黛を持って戻ってきたのです。赤ん坊のシーナは口紅を塗られ、額のかなり高い位置に黒々とふたつの丸い眉を描いてもらいました。
それは妻の実家の方にある風習で私の地域にはありませんから同じことを期待したのではないのですが、何となく誰かに声をかけたい気持ちだったのです。
「おや、おや、おや」と近づいてきた女性はハーヴの手足に触ると、
「まあ何としっかりした手足だこと、やっぱり男の子だねえ」などと褒め上げます。
「それにまた、また何ともきかん気の強い顔をしていること。こりゃ“やんちゃ小僧”になるぞ。この顔はパンパースのコマーシャルに出るような子とは違う」
“パンパースのコマーシャルに出るような子とは違う”には笑ってしまいました。けれどとにかく健康でありさえすればいいと思っているエージュとシーナには何よりの励みです。
年寄りは子どもを褒めるときも勘所を心得ています。
それからさらに一か月。
シーナとハーヴは都会のマンションへと戻っていきました。
(この稿、次回最終)