カイト・カフェ

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「そろそろイライラしてきた」〜日本人はウソをついてはいけない

 今週18日にIOCトーマス・バッハ会長が来て、
「東京が(招致レースで)ほかの都市に勝って選ばれたのは、非常に説得力のある提案を出したからだ。(あとになって)競争のルールを変えてはいけない」
と言ったとき、私は深く傷つきました。他の人たちはどうだったのでしょう?
 バーンと大きくぶち上げておいて、手に入った後であちこち都合よく変えていくのが世界の通例であっても、日本人は巻き込まれてはいけないのです。それはこの国の道徳に反します。
 海の森水上競技場の建設費が異常にかかるとしたら、安く抑える方法を考えるとか、寄付も含めて収入を増やす道を考え出すとか、会場を変えない範囲でありとあらゆる工夫をするのが正道であって、世界に約束したことを違えるというのは邪道・極道です。

 しかしそもそも3兆円が東京都にとって荷が重いのかどうか。
 1350万人の東京都民が生み出す「都内総生産」は約93兆1千億円(平成25年度)でオランダ(約83兆3000億円)よりも多く、予算規模はスウェーデンの国家予算に匹敵する約13兆6500億円(28年度)です。また東京は都道府県で唯一、国からの交付金を受けず、予算の使い方に国の制約もない自治体なのです。
 東京よりずっと小さなロンドンがオリンピックにかけた運営資金が約3兆1700億円、ほとんど貧乏と言っていいリオデジャネイロでも約1兆3000億円も使っているというのに、天下の東京が何をウダウダ言っているのか。3兆円丸々借金したって10年かからず返済できるでしょう(かな?)。

 だいたい都合よく理念を振り回しすぎます。
 都民ファーストというとき、東京都民には「オリンピックを盛り上げたい」とか「世界から評価されたい」とか、あるいは「自分が積極的に参加したい」とか「観戦したい」とか「応援したい」とか、そういう気持ちは全くないのでしょうか? ただ「安けりゃいい」「俺たちの税金を使うな」、それだけなのでしょうか? それだけが都民の“思い”だとしたら、大東京都民はあまりにも狭量です。

 あるいはアスリート・ファーストなら、まずアスリートや日本ボート協会・国際ボート協会、カヌー連盟や水泳連盟、バレーボール協会に聞いてみればいいのです。それを聞かないのは誘致の段階で1年半もかけて決めたところを、今更だめだというはずもないからかもしれません。
 たしかに一部のボート選手は「潮や波の影響を受ける『海の森水上競技場』は避けたい」とか言っていますが、それはマスコミの取材不足・情報不足で、「海の森」は潮や波の影響は受けないようにするために約380億円もかけてしまい、それが予算高騰の大きな原因のひとつなのです。完成した「海の森水上競技場」は波や潮の影響を受けないボート場なのです。
 ほんとうに完ぺきな競技場で、アスリートや協会・連盟の希望を全部盛り込もうとしたのであんな高額になってしまいました。選手やボートを波や潮に曝していい、もっと粗末でいいというなら、ずっと安くできたはずです。
 事実今回、東京都はレールカメラを南側から逆光になる北側へ移すことで100億円以上浮かせ、300億円という数字を出してきました。我慢してもらえることが増えれば、さらに安くなるはずです。

 いや、金の問題でもアスリートの問題でもなく、大切なのは「復興五輪」という理念なのだと言うならなぜボートだけを東北に移すのか。
 同じく持て余している水泳とバレーボールの競技場も福島や岩手に移すべきで、両競技とも自然環境を考えなくて済む分、どこへでも持って行ける利点があります。

 施設を温泉地やその他の観光地近くに建てれば選手役員の宿舎も心配をせずに済みます。観客にとってオリンピック観戦は観光も兼ねることになり、地元にも金が落ちる――これ以上いいことはありません。
 さらにオリンピックプールについては、私にこの上ない名案があります。
 それは競技場を福島県いわき市常磐スパリゾートハワイアンズ(昔の常磐ハワイアンセンター)の隣に建設することです。そうしてそれを東北の一大ウォーター・リゾートにすればいいのです。
 一時期、福島第一原発事故の最前線になってしまったJビレッジは、日本サッカー界初のナショナルトレーニングセンターとしてつくられ、しかし現在は閉鎖中です。
 私の提案するスパリゾートハワイアンズ・ウォーターリゾートも水泳のナショナルトレーニングセンターにすれば、再開されるJビレッジと並んで偉大な“レガシー”となること間違いなしです。将来のメダリストを練習や大会に送ってきた家族は、スパでゆっくり休んでもらい、いっしょにフラダンスを踊って帰ってもらえばいいのです。
 まさか、国内で人気のないボートならいいが、人気の水泳やバレーボールは手放せないなどとは言い出さないでしょう?

 しかし、基本的にすべての競技は、最初の計画を大きく逸脱しない範囲で行うべきだと私は思います。約束したのですから。
 ボートは日本ではマイナーですが国際的には決してマイナーではなく、イギリスなどは国技のように考え2020年も大量のメダル獲得をもくろんで張り切っています。そんな諸外国に対し、計画を次々と変えていくのは失礼ですし日本の信用に関わります。

 トランプのような人ができもしないことを堂々と語り、中国が南シナ海の島々に灯台と偽って空港をつくり、シリアでは政府がIS掃討と言いながら自国の反体制勢力を攻撃しても、日本は同じようであってはいけません。正直でなくてはならないのです。どんなに苦しくとも“言ったことはやる国”、“約束をまもる国”でなくてはなりません。

 そうでなければこの国の子どもたちは、自国に誇りをもって生きていくことはできないのですから。