カイト・カフェ

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「山や島の小さな学校の不思議な風景」~不登校の子たちにオンライン学習を④ 

 山間や島嶼の小規模校は、
 教師のあり方も特殊だが、子どもの様子もかなり変わっている。
 入学式の歌が当たり前に歌えない、運動会が変、
 そして日常の授業も少し違っている。

というお話。

f:id:kite-cafe:20200623072558j:plain(「春の長野県 小川村」フォトACより)

 

【山や島の小さな学校の不思議な風景】

 超少人数の山や島の学校には、街場の学校では想像もできない特別な風景があります。
 例えば新入生2名といったミニサイズの入学式だと、ありふれた入学式の歌も歌えません。
♪一年生になったら
♫一年生になったら
♪ともだち100人 できるかな

まど・みちお作詞/山本直純作曲「一年生になったら」)
 全校18名の学校では歌っても空しいだけです。友だち100人なんて絶対できませんし、そもそも自分以外の17人は先輩も含めてみんな昔から友だちみたいなものです。

♪サクラさいたら いちねんせい
♫ひとりで いけるかな
♪となりにすわる子 いい子かな

伊藤アキラ作詞・桜井順作曲「ドキドキドン! いちねんせい」)
 となりにすわる子、先刻承知。生まれた時からずっと一緒ですから今さら「ドキドキドン!」ということもありません。

 運動会でも「かけっこ」は1レースのみで終了。「大玉送り」は列が紅白それぞれ3mですからあっという間の勝負です(ウソです。実際には行いません)。
 綱引きはひとりひとりの比重が半端でないので、実力が拮抗するよう初めの調整が大変です。児童の紅白決めも綱引きを考慮するところから始まります。ただしそれにもかかわらず当日1名が欠席してしまい、やる前から勝敗が見えてしまうこともあります。14人対14人で均衡が取れていたのに、一方が一人欠ければどちらが勝つかは明らかです。

 運動と言えば、小規模校では日常の体育からして普通ではありません。
 私が小規模学級としては最初に担任したクラスは児童数が13名でしたが、初めての体育の授業で子どもを殺しそうになりました。
 跳び箱の授業だったのですが、2列で練習させると片方の列が6~7名。これだと走って跳び箱を跳んで元の場所に戻って来るころには、もう自分の番です。待っている時間がまるでない――。ですから15分も続けるとひとり30回~40回は跳ぶことになり、あっという間にへばってしまうのです。
 たった45分の授業なのに何回も休憩を入れないと、子どもは過労死しかねません。
 
 

【小規模学校の特殊な教育】

 教室の授業でも普通規模の学校とは違ったことがたくさん起こります。
 話し合いの場面では、優れた発言がひとつあると後が続かない。「アイツが言うんだから間違いない」といった雰囲気が広がり、中身も吟味しないで皆で引き下がってしまうことがたびたびあります。保育園のころから1クラスでやってきていますから、勉強や運動の序列が十二分に分かっているのです。がんばってもしょうがないと、がんばり屋さんも少なくなります。

 小規模校の「子どもひとりひとりに丁寧に対応できる」ということが、必ずしもよくない場合もあります。日本の40人学級は褒められることは稀ですが、それでいいことだってたくさんあるのです。
 40人もいると、子どもが練習問題を解くような場面では担任の手が回り切らなくなり、どうしてもほったらかしの子が出て来ます。
 ほったらかしでも優秀な子はガンガン進めていきますから問題ありません。普通レベルの子も、時間はかかるものの何とかひとりでやっていきます。なかなか理解の進まない子には担任がつきますからこれもいいでしょう。問題はその間の層、独力ではかなり苦しいものの、担任がべったりついているほどではない、教科では「中の下」か「下の上」くらいの子たちです。

 児童30~40人のクラスではその層も自主的に動きます。待っていたって先生は来てくれませんから、友だちに訊いたり一人で悩んだりしながら、なんとか問題を解いてしまうのです。それで実力がつく。
 ところが小規模校では同じレベルの子が頑張らない――頑張らなくても先生がきて、助けてくれることは分かっているからです。

 担任の方でもなんとか独力で解かせたいのでその子のもとへ行かないよう努力するのですが、この勝負、たいていは子どもの勝ちです。15分も何もしないで待っていれば、さすがに耐えかねた担任が折れて助けに来てくれます。あとは1対1で教えてもらえばいいだけです。

 あ、宿題を一つ忘れていました。
 昨日の「小規模小中学校、教員相互の持ち時間数差をどう解消するか」
という件です。
 
 

【小規模小中学校、教員相互の持ち時間数差をどう解消するか】

 小規模校の場合、同じ3学級でも小学校は教諭が3人、中学校は教頭先生を含めて8人もの担任(学級担任・教科担任)が配当されている、しかも小学校の担任は全教科・全授業を一人で見なければならないのに対し、中学校で学級担任を持たない教諭は、音楽などで全学年合同授業などを行ってしまうと週に1~2時間しか授業のないこともある、極めて不公平だという話です。
 その不公平をどう解消していくのか。――。

 ひとつは昨日もお話しした中学校教科担任9教科10人の不足分(2~3人)を、複数免許を利用したり免許外で受け持ったりして少ない先生の時数を増やす方法です。例えば音楽と家庭科を同じ先生が持つ、体育と技術と美術を一人の先生で担当するといったふうです。
 しかしもっと多いのは、小規模だからこそ手が手が足りなくなっている小学校の授業を担当するという方法です。

 小規模中学校が一つあるということは、周辺に1~3校の小規模小学校があるということです。そこでは3学級の学校に3人、5学級に5人といったふうにしか教諭がいませんので、いっぱいいっぱいの日々を送っているに違いありません。
 そこで音楽や体育、美術、技術家庭科といった配当時数の少ない中学校の教科担任の先生が、小学校の専科教諭のような形で入るわけです。小学校英語や高学年の算数を行うということも考えられます。
 これでようやく、全体の均衡が取れています。

 しかしそれでもなお、麓の学校に比べると授業時数はかなり少ない先生の残っている場合があります。実にもったいないことです。

(この稿、続く)