カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「圧巻! 昭和! 杖立温泉葉隠館!」~九州旅行に行ってきた③

 3日目は阿蘇の杖立温泉。
 山間の古い温泉町の、とても古い旅館「葉隠館」。
 薄暗く急な階段を上った先の客室は、
 床がきしみ、障子の開け閉めも悪い。
 トイレも男女共用。
 しかしそこには大変な秘密があった。

というお話。

f:id:kite-cafe:20200223091941j:plain(杖立温泉の、左から娘のシーナ、一歩前を歩いている孫のハーヴ、妻のミーナ、息子のアキュラ、もう一人の孫のイーツはシーナの胸の抱っこ紐の中に納まっている)

【杖立温泉葉隠館】

 杖立温泉は熊本県阿蘇郡小国町の山間にあります。

 古い温泉街で谷が狭く、宿は駐車場が置けないので杖立川の河川敷をコンクリートで固めて、そこを公共の駐車場としているくらいです。私たちの泊まった葉隠館は国道とは反対側にあるために川を渡っての駐車だったのですが、幅は十分あるとはいえ欄干のない橋を渡るのは心穏やかではありませんでした。
 5泊の九州旅行のうち、夕食がついているのはここだけです。

「すごく豪華な食事なの」
 シーナはそう言いますが、着いてまず思ったのは建物の古さ。
 階段は急で内部は暗い。部屋に入ると畳の床がギシギシと鳴り、立て付けの悪い障子は動かすのが容易ではありません。
 トイレは今どき男女共用。和式がほとんどで洋式は4階建ての建物の3階にひとつあるだけです。

 連休中だというのに1泊2食付きで一人8千円弱ですから文句の言えないところですが、それにしても小金持ちの両親が付いているのだから、シーナももう少し豪華なところを選べばよかったのにと内心、思わないわけでもありませんでした。
 ただし私以外の「温オタ(温泉オタク)」3人組(妻・娘・息子)は満足そうで、到着するいや否や8カ月の赤ん坊のイーツを私に預けて、4歳のハーヴを連れて外湯めぐりに出かけました。

 夕飯までには戻って来ましたが、シーナの言う「豪華な夕食」は珍しく客室への運び込み。旅館の食事を客室でというのもほとんど何十年ぶりかのことです。
 ただし座卓に並べられた食事はとてもではありませんが「豪華」と言えるようなものではなく、あっという間に終わってしまいます。

 やはり8千円弱はこんなものかと思っていると・・・実はそれは前菜で、そのあと次から次へと見たことのないような料理が出てくるのです。次から次へ、また次から次へと。都会だったら料理だけで8千円と言われても不思議のない豪華さです。
 私は食べ物には頓着しない性格なので何が出ていたのか、何が特に珍しかったのか美味しかったのかはトンと覚えていないのですが、とにかくすごかった。
――しかしそれにしても建物はボロい・・・。

 するとシーナは、ここで極めつけの言葉を発するのです。
「昭和レトロで若い人にとても人気なの」
 それで得心しました。

 「安くて食事が豪華」だけでは今ひとつ満足感がなかったのですが、「昭和レトロ」と言われれば評判のほどが分かります。私にとっては単に古いだけの建物や風景が、平成・令和の世代から見るとよく保存され、かつ今も利用されている文化財なのです。
 確かにそれだと価値がある。

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葉隠館正面

f:id:kite-cafe:20150205152059j:plain三階ロビー

f:id:kite-cafe:20150205150655j:plain客室

f:id:kite-cafe:20150205151402j:plain黄金のトイレ

 

【昭和の温泉街、朝の風景】

 翌朝、出発前に散歩に出ると「昭和レトロ」の感はさらに増します。
古いと言っても明治大正を彷彿とさせるような古さではなく、モルタル造りの建物も多く、昭和40年前後の高度成長期の雰囲気を残す中途半端な古さです。

 中進の道は川に沿って走る道路なのですが、車もすれ違えないような細さ。そこからさらに細い裏小路が山の方に向かっていて、密集した建物の間の急坂を上っていくと、いくつかの小さな旅館、土産物屋、竹細工の工房などがあったりします。その奥には小さな祠や共同浴場も見えて、ちょっとした冒険気分です。雰囲気で言えば「千と千尋の神隠し」の「湯屋」近辺をぐっと凝縮して小さくしたような場所です。

 いったん坂を下って表通りに戻り、川の堤防にしつらえてある“蒸し場”を使わせてもらうことにしました。シーナが下調べをしてあったので、前日、道の駅で大量の野菜を買って自宅に送った際に一部残しておいたのです。そこに旅館の朝食で出た生卵も食べずに持ってきていたので、サツマイモやシイタケとともにセイロに入れさせてもらいました。所要時間15分だそうです。

 時間がありましたので“蒸し場”はそのままにして、杖立川の両岸を渡す橋のひとつ、「もみじ橋」に向かいます。
 屋根の付いたこの橋の欄干や鴨居にはびっしりと絵馬が飾られ、私の知る“昭和”ではないのですが独特の雰囲気があります。
 そこから、前夜、息子のアキュラがカップルの携帯ライトに全裸を晒してしまった元湯(洞窟風呂)に降りる道が下っています。

 私たちはそれから河川敷の駐車場をぐるっと回ってもとの“蒸し場”に戻り、車の横で、熱々の野菜や卵を頬張りました。

 私以外の「温オタ」三人組が前日、それぞれに面白スポットを見つけていてくれたので効率よく回れました。

 繰り返しになりますが、私にはさほどの風景ではありません。しかし昭和を垣間見たい人にとってはたまらない風景であることは間違いなさそうです。
 アキュラの感想だと、
「今まで行った温泉の中で、一番いい」
 選んだシーナも満足そうでした。

f:id:kite-cafe:20200318065111j:plain裏小路

f:id:kite-cafe:20200223091047j:plain共同浴場

f:id:kite-cafe:20200318065230j:plain蒸し場

f:id:kite-cafe:20200223091317j:plainもみじ橋

f:id:kite-cafe:20200318065333j:plain元湯へ降りる道と元湯(洞窟風呂)

f:id:kite-cafe:20200223090535j:plain朝日の差し込む杖立温泉

(公式サイト)
www.tuetate.com
(参考)
www.tabirai.net(この稿、続く)