カイト・カフェ

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「学校へ行きたくない」~カフカの『変身』だと虫になる

「朝、学校へ行きたくないと思ったことがありますか」というアンケートを取ると、小学生の7割ほどが「Yes」を選択します。そこから「今や学校は子どもにとって『行きたいところ』ではなくなっている」などとマスコミは書きたてたりしますが、裏を返せば3割近くの子どもが「今まで一度も『学校へ行きたくない』と思ったことがない」のですから、とんでもなく良い数字とも言えます。また、たった一度でも「学校に行きたくない」と思ったら7割の中に含められてしまうこのアンケート、そもそもがまったくあてにならないものだという言い方もできます。

 同じ質問を教員に行えば、もちろん何十年もの間「一度も行きたくないと思ったことのない」という猛者も少なくないと思いますが、それでも3割ということはないでしょう。何しろ子どもと比べて学校にいる年数が違いますから、皆、一度くらいはそう思っているはずです。

 かく言う私も一年に一度か二年に一回くらい、学校に行くのがしんどくてかなわないときがあります。あとから考えるとたいていは体調が悪い時で、原因は心の重さではなく身体の重さだったりするのですが、その瞬間はわかりません。それでも無理して出かけると学校に着いてからは何ということもありません(ただし午後から熱が上がってきたというようなことはありました)。

 カフカの「変身」は
「ある朝、グレゴール・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した」
で始まる衝撃的な小説です。その衝撃にびっくりしてついつい読み落としてしまいますが、グレゴールがなぜ“虫”になってしなったかは、小説のかなり早い段階で示されています。前夜、「ああ、明日は仕事に来たくないなあ」と考えたからです。

 カフカの思想の中には「人間は体制に属さないと生きていけない」という確信と恐れがありました。ですから一連の小説の中には必死に組織にしがみつき、あるいは組織に属そうとする人物が多く登場します。もちろんそれは全体主義につながる考え方で、その意味では危険な思想とも言えます。

 そのためカフカは自分の作品をすべて焼却処分するよう遺言しましたが、遺志は結局実現されませんでした。おかげで、私たちはそのすぐれた作品を読むことができます。しかし彼の提示した「人間と組織の関わり」という問題が解けたわけではありません。

 私は昨夜、なんとなく体が重くて「明日はゆっくり休みたいな」と思いました。しかし幸い、今朝は虫になることなく、人間のまま目覚めることができました。
 元気に学校に行きます。