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「学校の仕組み」~クロス業務とマトリクス社会について

 昨日、クロス業務とマトリクス社会について書きました。これについてもう少し説明しておきます。

 まずクロス業務ですが、これは一人の人間が同時に異なる職種をこなすことを言います。マルチタスクとも言います。
 具体的に言えば、担任・教科担任・部活顧問・児童・生徒会顧問・PTA委員会顧問などなどは、分担するものではなく一人が同時に行うものです。さらに細かく言えば、行事の企画・運営、学年費の徴収・執行・経理給食費などの督促、保護者への対応、クレーム処理、市教委や県教委への報告、統計処理、その他もろもろ、まったく性質の異なる仕事が一人に集まっています。

 一般に「学校の先生は子どもたちに勉強を教えるもの」という印象が強いので、こうした多様な業務を行っていることはあまり知られていません。以前、ある統計を見て「日本の先生は授業時間は少ないけれど、雑用が多くて本当に大変ですね」と言った人がいますが、雑用ではなく、勉強を教える以外の重要な仕事がたくさんあるのです。

 中小以上の企業だとこうはなりません。例えば車のディーラーを見ても、午前中店頭で来店客の対応をし、午後は修理や車検業務にあたって夕方から収支報告書をつくるなどといったことはないのです。それらは同時に、別の人間が行うべきことです。
 教員の仕事はその意味では完全な個人営業で、小さなお店のオヤジさんがやっていることとほとんど同じなのです。

 このクロス業務は必然的に組織のあり方を規定します。なぜなら学校について話し合うとき、学級担任に関る議題のあとに生徒会の議題が出され、続いてPTAの話題が出てくるとなると、常に全員がその場にいなければならなくなるからです。どうしても全員が集まる職員会議必要になります。

 職員会議では学校内のすべての問題についいて話し合われ、それぞれが意見を求められます。しかし企業は違います。先ほどのカーディーラーの例に戻すと、全員が同じテーブルに着き、営業が修理の方針に口を出し、修理が営業方針や顧客対応の是非について何かを述べるといったことはおよそ考えられません。
 組織のかたちはピラミッド型で、報告と指示はタテ方向で激しく行き来します。ところが学校はいわゆるナベブタ型組織であり、縦方向の情報伝達よりも横方向、さらに言えばクロス業務ですから網目のように広がる伝達組織の上を、縦横に動くのです。これがマトリクス社会です。

 このマトリクス社会、情報を二重三重に共有するわけですから、非常に時間がかかります。
 会議の精選、時間短縮と何度も叫ばれるのにさっぱりうまくいかないのはそのためで、「すべての職員がすべての情報を共有しなければ何も動かない」のが特徴です。ただしもちろん、情報の共有が終わると、すべては呆れるほど迅速に、正確に動きます。
 なにしろ6年生の修学旅行について1年生の担任でも知識があるのですから、万が一の場合も全員がバックアップに回れるのです。

 昨日の、「業務の対象が個人」ということに加えて、こうした学校の特殊性についても説明しておかないと、学校は理解されるものではありません。常に叫んでいないと繰り返し誤解を受けることになります。