カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「親の抵抗にどう対処するか」~子どもの犯罪に②

 万引きをした店に謝りに行くことに、親が抵抗を示す。
 理由は、①法律的に必要ない、②万引きがばれていじめられる危険性がある、③これ以上子どもを傷つける必要はない。不登校になったらどうしてくれるのか、等々。
それに対する私の答えはこうです。

 警察や弁護士が扱うのは罪と罰の対応です。刑法にも「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する」(刑法199条 殺人)とあるように、「こうした罪を犯した人にはこういう罰を与えますよ」というのが主要な問題であって、人殺しはいけませんとか人間のすることではないとかいった道徳的なことは教育が行うべき内容です。警察で済んだ事件を、学校で再びあつかうのはそのためです。この子たちには教育面からのサポートが必要です。

 ところで当面問題になるのは、今、目の前にある物品です。警察に捕まった時に買い取ったものとは違い、ここにあるのはお店も知らない盗品です。これをどうしますか? 捨てますか?

 これについて買い取りも謝罪もしないというのは、子どもの将来に重大な問題を残します。お子さんが本当に深く反省しているとしたら、生涯の心の傷として残るでしょう。考えてもごらんなさい、もう使わないとしても盗みっぱなしですよ。何の償いもせずにこの先も生きていかなければならない。デリケートで誠実な心を持った子には耐えられるものではありません。 

 いやそんなことはない、うちの子はそこまで深くは考えていない、ということでしたらそれは反省の足りない証拠です。その場合はもっと深刻な問題が出てきます。警察やお店にバレなかったものについて何もしないで済ませることは、それはすなわち、バレなければ何をやってもいいと、“私たち”が教えることになるからです。そうではありませんか?

 万引きは常習性のある犯罪です。考えてもみてください。例えばこのゲームソフト、一本6000円くらいですか? これをまじめに手に入れようとしたら何か月かかります? 毎月のお小遣いを一銭も使わずに貯めたとしても半年以上はかかるでしょう。あるいはクリスマスや誕生日といったビックイベントを待つしかありませんが、それとて一年に数回です。次々に出てくる欲望に見合う回数ではありません。

 ところがそんな苦痛に満ちた悠長な時間を過ごさずとも、ちょっと頑張れば、ほんの少し我慢すれば、簡単に手に入る方法があるのです。それが万引きです。今回は運悪く捕まってしまったけれど十分に注意してやればきっとうまくいく、そんな悪魔のささやきが頭の中でガンガン響きます。何しろバレなければいいのですから、ちょっと頑張ればいい・・・。

 この子たちはそうした禁断の果実を食べてしまったのです。本当に懲りなかった子はその甘さが忘れられない。欲しくて手に入らないものがあると、必ずその甘さを思い出す・・・。そうした果実の甘さに対抗するには、よほど強力な対抗策が必要です。親御さんにお店周りをして謝っていただくのはそのためです。親の惨めで切ない姿を脳裏に焼き付けて、欲望が高まるたびに浮かび上がるように閂をするわけです。何と言ったって子どもが一番大切なのはお母さんやお父さんなのですから。

 え? そうすれば必ず万引きしなくなるという保証があるかって? そんなことは分かりません。しかし二度と罪を犯さない可能性は飛躍的に高まります。それは近代教育だけでも150年もやってきた、日本の公教育の経験知なのです。私たちの先輩が長い時間かけて発見した最高の手段ですからそれにしたがってまず間違いありません。
 それとも敢えて冒険して見ますか? 盗んだことを放置しても二度としないか、自分のお子さんを使って実験してみます?

*一昨日のデイ・バイ・デイ「警察の誘導で避難する児童」の写真は、実は陰惨な現場を見せたくない警察官が「前の人の肩につかまって列になって行きなさい。そして私がいいと言うまで絶対に目を開けてはいけない」そう言って送り出したものだそうです。アメリカに失礼なことをしました。しかし現場ですぐにそうした配慮ができるなんて、踏んでいる陰惨な場数が違うということなのでしょうね。