カイト・カフェ

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「基本的な指導のしかた」~子どもの犯罪に①

 子どもを先入観で見てはいけない、それは当たり前のことです。しかし昔、そうした話をしている最中に一人の同僚がこんなことを言ったことがあります、ボソッと。
「ウン、確かに子どもを先入観で見てはいけない。でも、先入観って、これが結構当たるんだよなあ」

 たとえば生徒数400人の学校で何らかの問題(たとえばガラスが割れたのに割った犯人が名乗り出ない)があったとき、400人を全部容疑者して一人ひとり当たったのでは埒が明きません。400人中380人くらいは割れば名乗り出る子たちです(これが先入観)。だとしたら調査は残りの20人から始める方が効率的です。そして実際、犯人はその中にいます、普通は。

 父親の財布から1万円盗んだのを親が発見したとします。その子は99%初犯ではありません。父親の財布から1万円抜いても分からないかもしれないという判断は普通の子にはできないからです。
 子どもが親の財布に手を出すとしたら、まず母親の小銭入れから始まります。それはもう100%くらい間違いのないことです。何しろ母親の財布は出入りが激しいいですから、少しぐらい抜かれても分からないのです。しかし多くの場合、母親の財布に高額紙幣はあまり入っていません。そこで父親の財布に手を出します。
 ところが1000円抜いてみたが親は不審にも思っていない、3000円抜いてみたが首をかしげている様子もない、思い切って5000円盗んでみたがやはり気づかない、そこで1万円抜いてみる・・・と、次第にエスカレートしてようやくつかまるのです。つまり父親の財布から1万円を抜き出すまでに、長い長い道のりがあるのです。

 万引きも同じです。捕まるときにはすでにかなりの経験を積んでいます。とにかく初犯のときは慎重に慎重を重ねますから、そう簡単には捕まりません。それがやがて常習となり、慣れるにつれて大胆になって最後はあきれるほどいい加減なやり方をして捕まる、それが普通のパターンです。したがって万引きの指導はほとんどの場合、長い長い道のりとなります。

 子どもの万引きが発覚したら、学校の行う指導はほぼ定式化しています。

  1. 品物を全部学校に持ってこさせ、詳しい調書をつくる。いつ誰と、どこのお店で、何をどんなふうに盗ったのか、盗んでいるときの気持ちはどうだったか等々。
  2. 品物はすべて買い取りとし、保護者とともに一軒一軒謝罪しながら支払いをして回る。何日かかっても全部やる。親がお店の人に対して頭を下げる姿をこの脳裏に焼き付かせ、それをもって再犯防止の閂(かんぬき)とする。

  そういった説明でたいていの親は納得してくれます。ところが最近、それを拒否する保護者が現れ学校を驚かせています。真の理由は「行きたくない」です。しかし説明はこんなふうになります。

  1. 弁護士に聞いたところ、警察に捕まった分については、これは犯罪だからきちんと弁済しなければならない。相手の心証の問題もあるから、きちんと謝ることも大切だ、しかし摘発されなかった分については弁償や謝罪の義務はない、と言っていた。
  2. A店を何件も詫びているうちに誰かに見られ、ウチの子の万引きがばれた場合、この子が学校でいじめられる危険性がある。その場合、学校は責任をとれるのか。
  3. 本人は警察に捕まって反省させられ、もう十分に傷ついている。これ以上の反省や謝罪がなぜ必要なのか。そのために不登校にでもなったら、学校はどう責任を取ってくれえるのか。 

 さてこんな場合、私たちはなんと言ったらよいのでしょう。

(この稿、続く)