カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「教師の役得」~といっても大したものではなかったが――

 昔、こんなコントだか漫才だかがありました。
(ある映画館のチケット売り場で)
A「高校生一枚」
B「高校生一枚」
C「中学生1枚」
・・・すると後ろについていた老人が、
「農業1枚」・・・。

 私がまだ独身だったころのことです。自分のクラスの生徒にせがまれて一緒に映画を見に行ったことがあります。子どもたちが窓口で「中学生1枚」「中学生1枚」と言っているうちに今のコントを思い出し、ちょっとしたウケ狙いで「教師1枚」と言ってみたらホントに割り引いてくれました。びっくりしました。それが窓口の人の粋な計らいだったのか、そもそもそういうものだったのかは今となってはわかりません。

 これも昔の話。以前、長期休業中の子ども向け映画のチラシを配ってもらう代わりに、市内の映画館は、無料券を数枚置いていくのが常でした。こうした映画イベントにはたいてい市教委の推薦ついているのでそんなサービスをしなくてもいいのですが、それはそれで映画館のちょっとした心遣いでした。ただし皆忙しいですから、結局使われずに終わるのが常だったように思います。

 15年ほど前、たまたま夏休み前に見たい映画がかかり、私はその券を使って息子と一緒に映画館に行くことにしました。もちろん息子の分は支払います。ところがいざ入場しようとしたら入口の人に止められてしまいました。これは夏休み中の子ども向け映画を見てもらうための券なので困るというのです。そんなことはどこにも書いてありませんし、今までだって使ってきたものです。それにそもそもいい年をした大人が、子ども向け映画など一人で見に行くはずもありません。

 しかしそんなことで争うのも大人げないので、しかたなく息子の分を払い戻して映画も見ずに帰ってきました。駐車場代だけ損をしました。映画館の方も息子の分だけ儲けを逃しました。その上で、映画は時間通りに上映されているわけですから、いわば空気に鑑賞させているようなもので、駐車場のおじさん以外は誰も得をしていません。もったいないことだと思いました。
 その後、私は二度とその映画館に行きませんでしたが、そうこうするうちにまもなく映画館は潰れてしまいました。商売が下手です。

 教師の役得といってもその程度のものです。
 1992年、埼玉県ではいわゆる“業者テスト”が問題となりました。一社独占で行われるこのテストが、学校と企業の癒着として疑われたのです。当然そこには巨大なリベートがあると確信したマスコミ各社は、社会部の腕利きを大挙して埼玉県に送り込みました。しかし取材から分かったのは、誠実な教師たちが休日返上で頑張っている真面目な姿だけです。一社独占は経年変化を調べるためだったのです。

 年が下って、今や公務員は公務から爪の先ほどの利益も得ないよう躾けられています。にもかかわらず私など迂闊で、クリスマスパー・ティーの買い物で自分のカードにポイントをつけてしまい、仕方ないので全部買い直して新たなレシートをつくってもらったことがあります。それからはしばらく、我が家は来る日も来る日もホットケーキですっかりウンザリしてしまいました。

 職業人として、後ろ暗いところが全くないというのは良いことです。どこからも後ろ指を指されない人生は素晴らしいに違いありません。
 もちろんそうあるべきですが、それにしても現在の神経質なありようは、何かが間違っている気がしないでもありません。