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「4月1日、今日、学校で起こること」~四月バカの話ではないが四月バカみたいな新年度当初のできごと①

 4月、全国の新入生・新入社員・新入職員、
 その大部分は希望に胸をときめかせ、新生活初日を始める。
 しかしここに最初の15分で脳ミソを沸騰させる人たちがいる。
 学校の初任教師たちだ。彼らはその日いきなり嵐の中に投げ込まれる。
という話。(写真:フォトAC)

【準備職員会議開始まで】

 4月最初の出勤日(今年の場合は今日、4月1日月曜日)は、新年度初日という特別な日なのに、学校としては珍しいことに、朝の始まりはむしろ遅いくらいです。というのも朝の内に済ませておかなくてはならない仕事というものがほとんどなく、中学校の先生も部活動を入れないのが普通だからです。年度も替わり、形式上、部活顧問も誰がやるか分からないことになっているので、練習も入れられない、というのが表向きの理由です。校長先生から正式な委嘱を受ければ、翌日からは練習を入れてもかまいません。
 
 もちろん始まりが遅いとは言っても、就業時刻の少し前ぐらいになると前年度から留任している先生たちは自然と職員室に集まり、簡単な掃除などをし始めます。同じ時刻、新しく転任してこられる先生や新任の先生は、玄関や廊下に張り出された掲示に従って、予め連絡のあった校長室へ向かいます。昔はこのときに菓子などの手土産を持って来たものですが、今は厳に禁じられているので空身で来るのが普通です。
 校長先生に挨拶をし、初めて顔を合わせる他の先生方と一緒にしばらく懇談した後、全員が揃ったところで校長先生より辞令が交付されます。
「あなたを◯◯小学校の教諭に任ずる」
といった内容を書いたA4サイズの紙です。普通は都道府県教委の名前で出されます。

 それが普通の1年の始まりですが、稀に校長先生自身が転任・新任ということがあり、その場合は辞令交付に先立って新校長の着任式というのが行われます。転任・新任の先生方の受け入れは校長の仕事ですから、まず校長を確定しないと始まらないのです。
 その場合は転任・新任の先生たちの控室も校長室ではなく、理科室とか家庭科室とかに設けられ、そのあと前年度からの留任の先生方と一緒に、着任式に列席したりします。お互いに自己紹介をする暇もないまま、一緒に拍手をしたりするので何か変な感じです。

【何故このタイミングで職員室の席替え!?】

 辞令交付が終わって予定の時間がくると、校長先生の先導で職員室に入ります。留任の先生方が校歌や拍手で迎えてくれます。校歌で迎えるところもあれば、拍手で迎えるところもあるという意味です。
 校長先生が転院・新任の先生方を一人ひとり簡単に紹介し、異動の先生の少ない学校では一人ずつ、大人数の場合は代表者ひとりがひとこと、挨拶をします。続いて留任の先生方も、一人ひとりあるいは代表で挨拶をし、対面式みたいな儀式が終わります。

 続いて校長先生から「職員組織発表」が行われます。「組織」といってもたいそうなことではなく、要するに副校長先生は誰々、事務の先生は誰々、1学年の主任は誰々で1年1組担任が誰、というふうに順次発表していくわけです。これが終わらないと職員室の席すら決まってきません。
 個々には内々に知らされていますが、正式な発表はこれが初めてです。転任・新任の先生の中には内心、“ちょっと話が違ったな”と思っている人もいるかもしれません。駅伝のメンバー表みたいに、直前で人を入れ替えたりする校長先生もいるのです。
 組織発表が終わると早くも最初の休憩になります。机の移動をしなくてはなりません。新しい先生の机は空ですが、残留の先生方の机は中身が詰まっていますから、机ごと移動するわけです。
 ここで気の利いた初任の先生方の頭の中に「?」が点灯します。
「誰が何年の担任になるかなんて、昨日のうちから分かっているんだから、前もって用意しておけばいいじゃないか?」
という疑問です。

【オレ、学校でを何やらされるんだ?】

 疑問は職員会議が再開されるとさらに深まります。
 再開職員会議の最初が「学校運営の方針」「本年度本校学校教育の指針」といった校長先生の長ったらしい演説。“今年度、私はこの学校をこんなふうにやって行きたい」という施政方針演説ですから、やりたいのは分かりますが、同じ日本国内の義務教育内の話です、そんなに変わったことはできないでしょう。中身もいろいろ偉そうに言うほどの内容でもありません。
 ま、しかし初任に身で文句を言う訳にも行きませんから黙って聞きましょう。
 (それにしても長いな・・・)
 
 その長い長いお話が終わって続く「職員組織発表」「校務分掌」だの――何かと思ったら校内の役割分担なのですが、A4サイズで1cmはあろうかという厚い職員会議冊子にA3で織り込まれた組織図、見るとびっしりと係名があって、その下に職員名が、それも二重三重に同じ名前が出ています。
 副校長先生が名前を読み上げて、係の樹形図の一塊ごとに校長先生が、
「以上の通りお願いします」
とおっしゃる。
 こちらは気もそぞろで、教員の社会科係ってなんだ? 儀式的行事係ってなんだ? 人権教育係ってなにするんだ? 給食係って先生たちの給食を運ぶ係か? と頭の中は混乱の極み。 
「オレ、中学校に社会科を教えるために来たのに、いったい何をやらされるんだ?」

【夕方まで生きていられないかもしれない・・・】

 しかしその答えを探す間もなく、議題はどんどん進んでいきます。覚えておかなくてはならないだろうことが山ほどあって、それを副校長先生やら係の先生やらが冊子に従って次々と説明していきます。
「在籍生徒数・家庭数はこうなっています」
「地区別だとこうした人数になっています」
「校務分掌の内容はこういうことです」
「いざというときの指揮系統はこうなっています」
「特別教室等の火気責任者は以下の通り」
「教室配置・職員室配置・職員ロッカー・下足箱配置・職員駐車場 は次のようになっています」
「年間授業日数及び授業時数は以下の通り」
「週日課表はこうです」
「特別教室時間割はこうです」
「年間行事予定表はこんなふうになっています」
 以下、校則だの清掃の仕方だの清掃分担だの、給食のきまりだの保健室の使い方だの、救急体制だの、登下校の方法、避難経路、等々々
 とりあえず始業式・入学式のその日から問題になりそうなことはすべてここで確認することになります。おっと、その入学式・始業式の計画についても話があるぞ、4月当初の計画の説明もある。家庭訪問? 交通安全指導? 部活説明会? 避難訓練? 生徒会入会式? PTA総会? これ全部4月中にやるのか?
 
 職員会議の最初の15分、およそ9時ごろには沸騰していた脳ミソはその後3時間にわたって煮えたぎり、結局、何が何だか分からないまま12時には終わります。
「本日の予定」の欄をみると、その先に「昼食会」「校内巡り(新しい先生のみ)」「学年会」「挨拶回り(新しい先生のみ・◯◯委員・JA・役場・郵便局)」「学級事務」・・・・。
 オレ、夕方まで生きていられないかもしれない・・・。