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「三日目にして学校の構造が何となくわかって来る」~四月バカの話ではないが四月バカみたいな4月当初のできごと③

 三日目も係会と職員会、そして入学式・始業式の準備。
 これでわずか4日目の入学式・始業式は可能になる。
 しかしロクに頭に入らない学校全体の話を、
 なぜこの忙しい時期に聞かなくてはならないのか。
という話。(写真:フォトAC)

【3日目に起こること】

 三日目も午前中は係会が二つと職員会議。
 今日の係会で話し合ったことを今日の職員会議で扱うのではなく、来週か再来週の職員会議で取り上げることになります。係主任はそれまでに計画案を作り直してきます。
 
 午後は入学式と始業式の準備。一昨日、副校長先生と係の先生が示してくれた案に従って、体育館や教室、来賓控室などを整えます。もっとも(後から知るのですが)大部分のことは3月末に1~2年生を登校させて済ませていますから、生花の手配や紅白幕の張り直し、立て看板の準備やら放送機器の確認など、直前の細かな作業が残っているだけです。
 
 経験者の先生方はいいのですが、初任の先生はここでまたひとつ出遅れを感じます。初日の職員会で聞かされた入学式や始業式の次第や準備について、何ひとつ覚えていないのです。体育館に職員会議の冊子を持ち込んでおられる先生は少なくありませんが、首っききで読みながら行動しているのは初任の先生ひとり。とにかくなにも分かっていません。
 そしてそれらが全部終わると、一息ホッとして、それから震えあがります。
「明日から生徒がくるのに、何の用意もない・・・」

【子どもたちは初日から動いている】

 ただし、三日目にして学校の構造というか、初日、二日目にやって来たことの意味がおぼろに分かってきます。
 ひとつは“子どもたちは初日から動いている”ということです。
 一昨日の昼頃、副校長先生が天を仰いで嘆いていたのは、
「これが今年最初の、オレの仕事かい? 8万円のうち5万円も使ってしまった!」
というものです。
 何があったのかというと1日の午前中に学校に遊びに来ていた生徒が、不注意で体育館の大ガラスを割ってしまい、年間のガラス修繕費8万円のうちの5万円を初日に執行する羽目になったというのです。あと364日も残っているのに――。

 しかしガラス代なんて金の問題ですからある程度どうでもいい話です。初日にさらに1枚割って都合10万円が必要になったとしても、教育委員会から叱責は受けるかもしれませんがガラスを入れないという選択肢はありません。教委の予算のいずれからか融通してくれるに決まっています。
 ところがこれが部活の際中で、器具の不具合のために生徒が大けがをしたとか亡くなったとかいった話になるとタダではすみません。あるいは生徒が今夜、繁華街で問題を起こすとか、明日始業式の日に学校に来た生徒が突然苦しみだすとか、始業式前の4月1日あろうと、入学前の生徒であろうと、学校は動かざるを得ません。
 そこで学校運営に関することや校則、危機管理や緊急連絡体制などは、4月1日から一通り学んでおく必要があるのです。

【職人組合(ギルド)としての学校】

 第二に、学校という組織が、分業と協業を基本とする社会の大方の組織と異なり、協業はあっても分業のない――いわば職人組合(ギルド)みたいなものであるため、初日からすべてについて理解しあわなくてはならないという事情もあります。

 一般的に言って、例えば自動車製造の組織では、ドアの製造にかかわる技術者はエンジンの出力や燃費の改善に関してプロである必要はありません。より安全で使いやすいドアを設計するのが仕事で、エンジンに無知でもかまわないのです。逆もまた同じで、それぞれが自分の部署を責任もって果たすことが前提で、そのうえ他の部門にも詳しければなおのこと良いだけの話です。
 ところが学校は児童生徒を部品別に育てるわけではありません。社会科の教師が社会科方面を、体育科教師が体育面をきちんと教えれば、9教科合わせて人格が完成、という訳にはいかないのです。
 
 中学校より小学校の方が説明しやすいのですが、3年1組の担任と3年2組の担任には同じことを同じように行うことが期待されていて、まったく違った教育がなされることは予定にありません。また6年生の担任に期待されていることも、レベルこそ違え、内容として同一です。
 
 教育基本法の第一条「教育の目的」に示された、
「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」
という目的を始め、第二条に示されるような具体的な目標、それを達成するために、学級があり、学級担任がいるのです。
 職員会に出席しているすべてのこうした教育職人が、自分の仕事をきちんとできるように互いに支え合い、協力し合っている、それが学校です。分業はないが協業はある、というのはそういう意味です。
 “学校では、すべての教師が同じ仕事をしている”
 そう考えて初めて、初日から学校の”From A to Z(あ-うん)”を学ばなければならない意味が分かってきます。

【だけど頑張る必要もなかった】

 三番目に言えることは、
「しかし、だからといって初日から全部に精通しようとする必要はなかった」
ということです。そもそも「校則」と「給食のきまり」と「清掃の仕方」をいちどきに覚えろと言われたってできるものではありません。
 大切なことは、それらが職員会議の冊子に書かれてあると承知していること、できれば何ページあたりにあったと漠然と思い出せるようにしておくこと。その項目の責任者が誰なのか、困った時に誰に聞けばいいのか、知っておくこと。その中でも一番声を掛けやすいのは誰なのか、秤にかけておくこと――それらが初日にやっておくべきことでした。
 今からでも遅くありません。
 誰を頼り、誰に相談して行けばいいのか――一番話しやすい人を探して親しくなっておく、それがこの時期にすべき最初の課題です。
 自分が有能で仕事ができることも大切ですが、誰がより良くできるかを知っていて、その人に頼めることはもっと大切です。
(この稿、続く)

[追記]
 今日中にやっておくべき仕事の中に、
「自分のクラスの生徒の名前を確認し、間違えずに言えるようにしておく。暗記が得意な人は、その上で名前も覚えておく(苦手な人はしない)」
を入れておくと役に立つかもしれません。私はサッパリ覚えられませんでしたが・・・。