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「定年が1年延びて大勢がこのまま教師を続けるらしい。やがて教師の総数は、現在より1割近くも増えるというが・・・」~定年延長の行方②

 定年は延びるが管理職は教壇に戻り、給与も3割減る。
 それでも続けられる人がどれだけいるかと思ったら、
 意外と多くて、数年後は6万人近くも教員が増えてしまう。
 大丈夫か?
という話。(写真:フォトAC)

 教職員人事に関する新聞発表があったことについて話しています。

【定年延長でも、教師を辞める人はいるはずだ】

 定年延長にもかかわらず60歳で退職してしまう先生がどれくらいいるのか、学校に残る先生がどれほどいるのか、そのことに興味があります。
 これだけ苛酷といわれる労働環境の中で、一度退職金を手にして区切りをつけてしまった教師たちが、給与を3割もカットされて、それでもなお生き生きと働いて行けるのだろうかという興味です。
 可能だという方にも、無理だという方にも、それぞれ理由は考えられます。
 
 苛酷とはいっても40年近くも続けて来た慣れた仕事、いまさら別の世界で苦労するよりはるかに楽だという人もいれば、青息吐息でなんとか60歳までやってきた、とにかく一度は休みたい、この仕事からしばらく足を洗っていたいという人だっているでしょう。
 定年延長の話があろうとなかろうと最初から60歳を過ぎたら辞めて別の仕事をするつもりだった(趣味に生きるつもりだった、家業を継ぐ予定だった)という人もいれば、いくつになってこの仕事は面白い、体の続く限り、80歳でも90歳でも続けたいという人もいるかもしれません。
 
 中でも興味のあるのが役職定年で管理職を退任した校長先生や副校長先生たちの帰趨です。その中には指導主事やら校長やら教育監やらと、20年以上も教育の最前線から遠ざかっていた人もいます。この人たちは今でも使い物になるのでしょうか。自己認識としてもやって行けそうなのか、そのあたりもずっと気になっています。
 私自身はたった10年の空白で現場に戻れる気がしなくなり、講師の依頼にも応じずに来ました。だからなおさらなのです。

【意外と大勢が教師を続けるらしい】

 そうした思いで改めて新聞を眺めると、管理職の「退任」の項目に名前があって一般職の「転任」の項目に名前のない人が何人かいることに気づきます。管理職は辞めたのに一般職に戻った形跡がない――だとしたら(ストーカー被害などを理由に新聞掲載を控えたといった事情のない限り)、その人は退職したと考えるのが妥当でしょう。私のように自信がなかったからなのか、他にやることがあったからなのかは分かりませんが、やはり役職定年で管理職から外れ、一般職として学級担任も辞さない生活に戻らない人はいるようです。
 
 では管理職以外に、定年延長にも関わらず60歳で退職した先生はどれくらいいたのでしょうか?
 新聞を見ると一般職の「退任」の項目にも、けっこう多くの名前が載っています。教諭からの「退任」ですから「退職」と同義だと思うのですが、それが結婚退職や転職のための退職なのか、あるいは60歳での退職なのかはよく分からないところです。
 ただ本文に「退職者は昨年から46%減」といった内容があり、普通の中途退職が大きく減る理由がない以上、その大部分は「定年が1年伸びたので、60歳で辞めるのをやめた」人たちだと考えることができます。
 
 また、これまでの経験から、年間の退職者のうち5割強が定年退職であったことを考えると、どうやら2023年度(令和5年度)中に60歳になった人の、9割以上が61歳定年の流れに乗って教師を続け、ほんの1割弱がこれを機に退職することにした、と考えてよさそうなのです。
 それは心理的にも十分頷ける話で、特に辞めたい事情があって手続きをしない限り、定年延長は自動的に進んでしまうのです。また定年を1年くらい先延ばしにしても、本人には大した問題ではないのです。だからほとんど全員が延長組に入ってしまう――。
 
 ただし個人にとって大したことのない問題でも、学校教育全体としてはそうでもありません。今年度60歳になった昭和37年生まれの小中学校の教員は、全国で17000名ほどもいます。その9割、つまり15400人余りが学校に残ったのです。そんなに大勢の教師が残って、彼らの居場所はあるのでしょうか? 今年だけならまだしも、来年以降も順次増えていくのです。

【教師の総数が現在よりも1割近く増えてくるらしい】

 とりあえずもうひとつ先まで考えて、来年度(2024年度)末を予想すると、2024年度中に60歳を迎える先生は今年度よりやや少ない16900人ほど、その9割にあたる15200人余りが学校に残ったとしましょう。今年度残った15400人と合わせて30600人もの先生が学校に残ることになります。ますます学校が狭くなる感じですが、考えてみると来年度は61歳定年の先生方が定年退職となる年です。ですから30600人から定年退職者15400人分を引いて15200人、つまり来年度の増加分がそっくり残るだけなのです。
 これでメデタシメデタシみたいな話になりかかるのですが、同じようにして2040年くらいまでシミュレーションしてみましょう。公立学校年齢別教員数《2020年度》よりSuperT作成)

 すると早くも5年後には、フルタイムで働く正規教職員が現在よりも6万人も多くなっているのがわかります。小中学校の教員数は現在のところ66万6000人ほどですから、それが一気に9%も増えてしまうわけです。
 さらに先までいていくと65歳定年がようやく落ち着く10年後くらいから、教員数が現在の5万人増程度で収まることも分かってきます。それにしても多すぎます。
 
 もっともこのシミュレーションの「60歳を過ぎても教員を続ける人が9割」という数字も根拠のあるものではありませんし、来年以降変わっていく可能性の高い数字でもあります。さらにこの計算には暫定再任用や講師の先生方、新規採用者の動向についても考慮されていません。そうした要素も加えれば、また違った面も見えてくるかもしれません。
 そんな頼りないデータですが、ただノホホンと状況を見ていればいいような話ではないことは、おそらく見て取れます。
(この稿、続く)