カイト・カフェ

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「『NIKE』はやっぱり『ニケ』でいい」~ブランド名の由来とマンスプレイニング①

 有名ブランドのおさがりを、義姉が次々送ってくる。
 だから私はけっこうブランドに詳しい。そして調べる。
 「ビトン」「ディオール」「フィラ」「アディダス」って何だ?
 「NIKE」はやっぱり「ニケ」だろう?
という話。
(写真:フォトAC)

【ボクがブランド服を着ているわけ】

「ある人が金持ちかどうかは、その人がいくら貯めたかではなく、いくら使ったかで決まる」という話を聞いたことがあります。その基準で言うといつも私たちに
「いいわねぇ、お金があって」
と羨ましがる義姉は、着ているものも身に着けているものも高級で、テニスだ、ディナーだ、海外旅行だといつも忙しく動き回っていて、とてもではありませんが貧しそうには見えません。それに引き換え我が家の夫婦は、ふたりでガンガン働いて稼ぎながら、スポーツはウォーキング、外食は年数回(夫婦のみでは1~2回)、夫婦二人だけの旅行は国内でさえしたことがないという貧しさです。着ているブランド服のほとんどは義姉から送られたお下がり。飲んでいる高級ウイスキーもすべていただき物です。

 しかしブランド品はそれなりに高級ですから長もちし、「フィラ」だの「アディダス」だの「アシックス」だのをいつも身に着けている私は、すっかりブランド志向の強い人間とみられているのかもしれません。実はそのことが私は恥ずかしい。本当はブランドに振り回されるような軽い人間ではないと、周囲から思われていたいのです。

【ブランド名の由来】

 もっとも悪いことばかりではなく、義姉との付き合いも35年を越えると、ブランド名くらいは自然と頭に入ってきて、ちょっとした物知りにもなります。義姉がいなければ私はブランドの「ブ」の字も知らない唐変木ですから、一般教養という面では感謝しなくてはならないでしょう。さらに気になることは自分でも調べますから、そこそこ詳しくなったりします。しかし詳しいのは着こなしとかコーディネートとかいったことではありません。たいていはブランド名の由来とか歴史とかいった話です。

 具体的に言えば、気になるのは「ブルガリ」がブルガリアと関係あるのかないのかとか、「サントリー」は創業の地に鳥居が三つ並んだ小さな社があったからという本当か、とかいった内容ですから、ファッションセンスについてはサッパリ向上しません。
 もっともすでに「馬子」ですらありませんから、着こなしがよくなっても見栄えが良くなるわけではありません。さっさと諦めましょう。
 
 着こなしに比べれば“知識”は目に見えませんから取り繕うことができます。
 さきほどの疑問、答えを言ってしまうと、「ブルガリ」はヨーグルトのブルガリアとは無関係で創業者であるイタリア人の姓が由来だそうですし、「三鳥居」の話はガセネタ。正しくは前身の寿屋が売り出した「赤玉ポートワイン」の赤玉を太陽に見立てて「サン」、そこに創業者・鳥井信治郎の鳥井をつけて「サントリー」なのだそうです。
 ライバルの「ニッカ」は創業時、ウイスキーという製品の特質上、販売までに時間がかかるため、最初の数年間をリンゴなどの果汁生産で凌ぎました。そのためにつくった会社が「大日本果汁株式会社」。略称の「日果」がブランド名の由来です。NHKの朝ドラ「マッサン」でもやっていました。

【『NIKE』はやっぱり『ニケ』でいい】

 欧米のファッション・ブランドの大部分は創業者の名前から来ていて、「ルイ・ヴィトン」「ディオール」「エルメス」「シャネル」などは皆そうです。スポーツブランドでも前述の「フィラ」がイタリア人兄弟の苗字ですし、アディダスはアドルフ(愛称はアディ)・ダスラーの名前が語源。仲たがいした弟のルドルフも「ルーダ(のちのプーマ)」を創業しています。
 創業者に起源をもたないものももちろんあって、今あげたプーマのように動物名をブランドにしたもの(クロコダイルなど)もあれば、神様の名前を冠したものもあります。

 貰ったものとは言え有名ブランドを身に着けることに抵抗のあった私は、「ヒラ(フィラ)」だの「ナニダス?(アディダス)」などと言っては照れてふざけていましたが、「ナイキ(NIKE)」を「ニケ」と呼んで遊んでいたのはあながち間違ってもいなかったようです。というのは「ナイキ」はギリシャ神話の勝利の女神ニケ(ニーケー)の英語読みで、スウッシュ(Swoosh)と呼ばれる「C」の筆記体に似たロゴマークは、女神ニケの翼をモチーフにデザインされたものだというからです。
 ギリシャはもちろんフランスでもイタリアでも、「NIKE」は「ニケ」と発音されるそうです。

 またこの分野での私の十八番は、日本のブランドの「アシックス(ASICS)」です。このブログでも何回か扱っていますが、古代ローマの詩人ユウェナリスの有名な詩文「健全な肉体に健全な魂のあれかし(Anima Sana in Corpore Sano)」の頭文字を並べてブランド名としました。ただしこの詩文は「健康な肉体に健全な精神が宿りますように」くらいの意味で、身体を鍛えていれば心も健康になるといった安易なことを保障したものではないようです。
「アシックスのウェアを身に着ければ心まで清くなる――ワケじゃないよ」
という、企業の節度というものかもしれません。

【番外「KIURE CRC 5―56」って何のこと?】

 ついでに、ブランド名ではありませんが製品として長年愛用している「KURE CRC 5-56」。スプレー式の潤滑油ですが、この5-56、含まれる成分の割合か何かと思ったらとんでもない話で、呉工業のサイトにはこんな説明がありました。
「5-56はアメリカのCRC社創立時の所在地番号が1-16で会ったことから最初に開発された製品を1-16,2番目を2-26という品名にしました。ですから、5‐56はCRC社が5番目に開発した製品となります」
 “なるほどね”と納得できるような話でもありません。しかしちょっとした豆知識として覚えておくと、いつか使えるかもしれません。

 さて、こんな話をしていればきりがなく、「社名・製品名100のトリビア」みたいな本はすぐにできそうですし、実際にあるのかもしれません。
 実は今日は知ったばかりのブランド名に関する面白話を、ひとつだけ紹介しようと思ったのです。しかし前触れだけで一日分の長さになってしまいましたから、残りは明日、お話ししましょう。
 (この稿、続く)