カイト・カフェ

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「また詐欺に引っかかりそうになる」~やはり教員は世間知らず(お金に関しては)

 妻がネットで買い物をし、その支払いに郵便局に行った。
 しかし局員が言う。「外国人名義の口座ですが大丈夫でしょうか?」
 妻が連絡を取り合っていたのは日本企業の日本人担当者、
 怪しい!
という話。(写真:フォトAC)

【やはり教員は世間知らず(お金に関しては)】

 一昨日の夜、妻が不意に、
「明日の朝、郵便局に行ってきてくれない?」
と言います。妻は現在もフルタイムの教員、私は専業主夫で冬場の現在は畑仕事もないので暇なのです。
「いいけど、何よ」
「さっきネットで買ったものがあって、24時間以内に振り込むと振込手数料が向こう持ちになるんですって。お金はあるんだけど、明日は年休を取れる時間もなくて――。行ってくれないかな?」
「いいよ。午前中はどうせ暇だから」
 ということで、妻から送り先の名前や口座番号を転送してもらい、お金も預かりました。2万円少々です。
 さて、ここまでの話で怪しむべき部分はありますか?(答えはのちほど)

 私は専業主夫で、これまでも何度も妻の振込を行ってきましたから簡単に引き受けましたが、あとから考えるといままでと違っていることがいくつかありました。
 ひとつは振込用紙がないことです。普段はネットバンキングで振り込みをするのが当たり前の妻が、あえて私に頼むのはひとえに郵便局の振込用紙が手元にあって、それで振り込むよう指定されているからです。

 もう一つ違っていたのは「24時間以内に振り込むと手数料はあちら持ち」という点です。「手数料は当社でもちます。支払金額から手数料を差し引いた金額でお振込みください」というのは以前もありましたが、「24時間以内なら」と条件が付いたのは初めてです。こうした条件をつけると受け付けた時刻と入金時刻、請求した金額と実際に振り込まれた金額を対照しなくてはなりませんからあちらとしたらかなり面倒です。たかが百数十円の振込手数料。払う側にはメリットがあっても、受け取る側には何のメリットもない、なぜそんな条件を付けたのか――それが先ほど申し上げた、
「さて、ここまでの話で怪しむべき部分はありますか?」
の答えです。向こうが詐欺師なら、カモに入金を急がせて考える暇を与えないことには、やはりメリットがあるのです。

 「教員は世間知らず」というセリフは、事、お金の問題に関してのみ同意します。何しろほとんど無休で月80時間もの時間外労働をし、教室環境のためには平気で自腹を切り、例外的に出してもらえる部活の休日手当も、4時間を越えてやった場合にのみ時給700円という、高校生も見向きしない低賃金で身を砕き骨を粉にしているわけですから、「世間知らずにもほどがある」レベルです。意図的に引っかけようとしたら、こんなに簡単に騙せる人間はそうはいないでしょう。しかし金融のプロは違います。

【よく知った仲の良い簡易郵便局

 私がいつも利用する簡易郵便局のお姉さん(注:古希の老人から見た表現で、実際に“お姉さん”かどうかは不明)はとても親切な方で、お金を振り込んだりすると、たった一枚ですが、市の可燃物用ゴミ袋をサービスしてくれたりするのです。それが欲しくて振込用紙のある支払いでは必ずそこへ行くのですが、振込用紙がゆうちょ払いとコンビニ払いの共用だったりすると本当に申し訳なさそうに、
「あのう、すみません。これ、ウチだと振込手数料がかかっちゃうんですよね。コンビニだとタダですから、そちらに行かれたらどうでしょう?」
などといってくれます。ゴミ袋一枚欲しさに110円払うこともありませんから結局コンビニに行くのですが、そんなふうに言ってもらえると今後は何があっても郵便局優先でものごとを考えようと、そんな気にもなろうというものです。
 今回も振込用紙のない話ですが振込先が郵便局なので、さっそく“お姉さんの簡易郵便局に行くことにしました。ところが・・・。

【「お客様、外国人名義の口座ですが、大丈夫でしょうか」】

 中に入って、「振り込みをしたいんですが」というと“お姉さん”は、
「振込先の口座は・・・?」
というので、予めプリントアウトしておいた用紙を見せます。出がけに妻からもらった情報の入ったスマホは、見たらまだ充電中だったので、置いて行きたかったのです。そこでプリントにしたのですが、それも幸運だったのかもしれません。
 “お姉さん”は内容を見て振込用紙を用意しながら、ふと立ち止まる感じがあってそれから言います。
「振込先が外国人のお名前ですが、大丈夫でしょうか?」
 私の方はプリントアウトした紙をしっかり見ていなかったので分からなかったのですが、よく見ると口座名義人は、
「ヴィ ✕✕ ロン」
 おそらくベトナム系の名前です。
「外国の方にもいろいろありますからこんなことを言ってはいけないかもしれませんけど、前に外国人のお名前のところに振り込みをして、品物が届かなかったというお客さんがおられたんですよ、何だったっけなあ・・・あ、墨だ。書道の墨を注文したのに来なかったって・・・」
 その瞬間、頭の中に右横からスコーンと入り込んできた知識があります。いつかテレビで言ってた、
「外国人名義の口座に振り込むよう指示されても絶対に従わないよう(に)」
という言葉です。現実の私とまったくつながっていませんでした。

【そう言えばテレビで見ていた】

 家に帰って調べると昨年(2023年)11月8日の「NHKニュースおはよう日本」(Webニュースでは11/7)でやっていた「振込先が外国人?特殊詐欺で急増 その背景は」に、私の記憶の隅にあった言葉が出てくるのです。

 今もWebニュースで見られますが、内容をツギハギで並べると、

  • 被害が後を絶たない特殊詐欺事件で今、こうした口座が現金の振込先に悪用されるケースが急増していることが、大阪府警の調べで分かりました。
  • 「警察は留学生や技能実習生などが帰国する際、使わなくなった口座を違法に売買するケースが増えているのではないかとしています」。

ということになります。
 日本とベトナムの橋渡しをするNPO法人「日越ともいき支援会」の吉水慈豊代表理事の話によると、

  •  「来日したもののコロナ禍で仕事を失い、お金を失い、住まいを失ったという外国人が続出しました。口座の売買については、犯罪という意識は薄いと思います。困窮状態でお金がない、生活できないという中で、公的な支援にもつながらず、お金に換えるために口座を売ってしまう。こうした外国人の若者がいるというのが日本の現状です」

 私たちが詐欺の被害に遭わないようにするにはどうすればいいのでしょうか。

  • 警察によると、外国人とみられる名義の口座は、個人名義にもかかわらず市役所をかたる手口で使われるなど不自然なケースが多く、詐欺に気付くきっかけになり得るといいます。
  •  警察は取り締まりを強化するとともに、外国人名義の口座に振り込むよう指示されても絶対に従わないよう、注意を呼びかけています。

と、ここでようやく注意を喚起する言葉が出てきます。それなのに私にとっては、どこかよそ事みたいな話だったのですね。

【きわどくセーフ】

 あとで妻から聞くと、メールでやり取りした会社名も担当者名も日本人そのもの。だとしたら口座名義人のみがベトナム人はやはり変です。妻も「相手企業のwebサイトもなんとなくピンとこないもので、この会社、結局、何を売ろうとしている会社なの?」「それぞれの商品に対する問い合わせ数が山ほどだけど、商品は在庫1。どうしていつまでも売れないのか?」とか、迷いに迷って注文したという面もあったみたいです。同僚に話すと「2万円そこそこは、騙されてもわざわざ警察に行かない、微妙な額ですよね」と言われたそうです。
 よくできた話でしたが、きわどいところで、セーフでした。クワバラ、クワバラ。