バレンタインデーに義姉からチョコレートを贈られた。
6粒入り3456円。一粒576円。豚に真珠、猫に小判。
しかしそれにしても「ゴディバ」っておいしそうに聞こえるか?
そこで調べると面白い話が出てきた。
という話。(ジョン・コリア「ゴダイヴァ夫人」(部分))
【一粒600円のチョコレート】
妻の姉、つまり私にとっては義姉にあたる人がさまざまにブランド商品を送ってくるという話をしました。その範囲はスポーツウェア、ウイスキー、菓子、チョコレートなど多岐にわたります。
先々週のバレンタイン・デーに来たのはいかにも高そうなチョコの詰め合わせ。ネットで調べたら(嫌な時代ですねぇ)6粒3456円というとんでもない代物でした(一粒576円!)。これこそ「豚に真珠」「猫に小判」「馬の耳に念仏」というものです。
576円に怯えて味わうことすらできません。
箱のロゴを見ると「GODIVA(ゴディバ)」。しかしあまりの値段の高さに私の方は「反吐バ」といった感じ。高級なものは口に合いません。
ところが「反吐バ」とふざけておきながら、ふと考え直します。「ゴディバ」という発音、あまりおいしそうに聞こえないのは日本人だからでしょうか? 外国人には心地よく聞こえる音なのでしょうか?
そこで調べると「ゴディバ」のサイトにこんな話が載っていました。
【「ゴディバ」の由来】
「ゴディバ」の名は、11世紀の英国の伯爵夫人レディ・ゴディバに由来します。「ゴディバ」のシンボルマークである、馬に跨った裸婦こそが、重税を課そうとする夫を戒め、苦しむ領民を救うために、自らを犠牲にした誇り高き彼女の姿です。
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領主レオフリック伯爵とその美しい妻レディ・ゴディバの伝説は、1043年、英国の小さな町コベントリーで生まれました。レオフリック伯爵は、コベントリーの領主に任命され、この小さな町を豊かで文化的な都市へ発展させようと決意しました。
大変信心深かったレオフリック伯爵とレディ・ゴディバは、初めに大修道院を建設しました。修道院はさまざまな宗教的、社会的活動の中心となり、この成功により伯爵の野心はますます燃え上がり、次々と公共の建物を建てては、領民から取る税を増やします。あらゆるものを課税の対象とし、肥料にまで税金をかけ、領民は重税に苦しみます。
心優しいレディ・ゴディバは、貧しい領民にさらに重税を課すことがどんなに苦しいことか、伯爵に税を引き下げるよう願い出ました。伯爵は断りましたが、彼女は何度も訴えます。ついに議論に疲れた伯爵は、彼女に告げます。「もしおまえが一糸まとわぬ姿で馬に乗り、コベントリーの町中を廻れたなら、その時は税を引き下げて建設計画を取り止めよう。」
翌朝、彼女は一糸まとわぬ姿で町を廻りました。領民たちはそんな彼女の姿を見ないように、窓を閉ざし敬意を表しました。そして伯爵は約束を守り、ついに税は引き下げられました。
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ゴディバの創始者ファミリーのジョセフ・ドラップスと妻ガブリエルは、レディ・ゴディバの勇気と深い愛に感銘し、1926年ベルギーに誕生した自らのブランドに「ゴディバ」の名を冠しました。
実は、私はこの話を昔から知っていたのです。ただしチョコレートのゴディバと全く結びつかなかったのは、英国コベントリーのこの物語が、ベルギーでは公用語のフランス語で語られたためです。本国では「ゴダイヴァ」と呼ばれ私が知っていたこの女性は、ベルギーでは「ゴディバ」と呼ばれていて、ふたつは私の中で結びついていなかったのです。
さらに言うと私には、「ゴダイヴァ夫人」の物語本体よりもそれに付随する後日譚の方が記憶に刻まれていて、そちらに気を取られて集中できなかったのかもしれません。それは「ピーピング・トム」と呼ばれるひとりの男の物語です。
【ピーピング・トム(Peeping Tom)の話】
チョコレートの「ゴディバ」のサイトには、
領民たちはそんな彼女の姿を見ないように、窓を閉ざし敬意を表しました。
とありましたが、実はトムという名の仕立屋が覗き見していたという話があります。伝説では夫人を覗き見しようとした瞬間に失明してしまったとか、(ゴディバのサイトの話とは違って)絶対見るなと命令が出ていたにもかかわらず見たので死刑になったとか言われています。そこから「覗き屋トム(ピーピング・トム)」という言葉ができて、日本の「出歯亀(出っ歯の亀太郎)」と同じように使われるようになったといいます(とは言っても「出歯亀」なんて今の人は知らないか)。
面白いことにゴダイヴァ夫人を讃える祭りでは薄布の服に全身を包んで裸を表現し、馬に乗るゴダイヴァ夫人役とともに、木でつくられたピーピング・トムの像が必ずどこかに飾られるといいます。卑劣な男の末路を忘れないようにとの教訓かも知れません。
またコベントリーの市庁舎の壁にはゴダイヴァ夫人の仕掛け時計というのがあって、毎正時に白馬に跨がったゴダイヴァ夫人の人形が現れると、その上の小窓からトムが覗き見するようになっているとも聞きました。こうなるとかえって戒めの話かどうか分からなくなります。
イギリス人、どこまでピーピング・トムが好きなのでしょう。
なお、ゴダイヴァ夫人は実在の女性ですが、裸で街を歩いたという話は史実ではないと、歴史学者たちの意見は一致しているようです。しかしだとしたらこの精緻な物語はどこから湧いた話なのでしょう。わずか1000年前のことなのに分からないのでしょうか?
(この稿、続く)