「新型コロナ、情報弱者としての若者たち」~コロナの生み出す日本社会の分断①

 この一年あまり、常に高齢者は若者たちに苛立ってきた。
 “重症化しない”という特権をもった連中が、ペストのネズミのごとく街を走り回っている。
 若者たちも苛立っている。
 政府はオレたちの意見も聞かず、街を閉じ学校を閉じ、自由と楽しみを奪っている――。
 この分断はどこから来たのだろう?

という話。

f:id:kite-cafe:20210531075258j:plain(写真:NHK)

 
 

【高齢者、若者の意見を聞く】

 先週金曜日のNHKニュース9では、政府の分科会の尾身会長の「若者の声が聴きたい」という希望をかなえ、若者の代表者との対談が企画されました。相手として選ばれたのはお笑いコンビEXITの「りんたろ-。」さんです。

 まず尾身会長が話題にしたのは、「いくら伝えても若者に危機感が届かない」ということでした。
「気がつかないうちに若い人が、感染の伝播に関与しているので、“(対策を)よろしくお願いします”と、かなり丁寧に、自分としては言ったつもりなのだけど、高齢者の尾身みたいな何かわからない連中が若いものに・・・という(反発)があって、これはなかなか難しいなと(感じるようになった)」

 小尾さんは例として、飲食店での飲み会などを挙げた「感染リスクが高まる『5つの場面』」を紹介します。ところが「りんたろー。」さんは、
「5つの場面というのは確かに聞いたことがなかったですね。どういったところでそれは発信されていたのですか?」
と問い返します。
「我々が記者会見をやるでしょう? (それを伝えるのは)ほとんどが新聞テレビですよ。新聞を読まない人はテレビも見ないという感じですか?」
「そうですね、興味深いコンテンツが増えすぎて、こちらが求めなくても入ってくるものが多い。これだけニュースでやっていても、今の若い子は、緊急事態宣言が出ているか出ていないかも知らない子が多いですね。で、外へ出て居酒屋がやっていなくて“なんだそれ”みたいなことなんですよね」

 尾身さんは、
「緊急事態宣言が出ていることもしらない・・・」
と絶句します。
「僕も驚くんですけど、それくらいの興味のレベルになってしまっているんだということです。これが現状だって思いますね」

 なかなかかみ合わない二人の討論は、結局、「りんたろ-。」さんの提出した「お互い様」という概念を基礎に、若者と高齢者が互いの違いを認めつつも、共通点を探していくことの大切さを確認し合って終わります。ただしこの討論の最も重要な部分は最後のそこではありません。
「これだけニュースでやってても、緊急事態宣言が出てるのか出てないのか知らない子も多い」
という部分です。
 
 

情報弱者としての若者たち】

 私が若いころでさえ、街頭インタビューでマイクを向けられた女性(なぜか若い女性と相場が決まっていました)が、甘えた声で「わかんな~い」と答える場面がたびたびありましたが、現在の「わからなさ」とはレベルが違います。

 昔の「わかんな~い」には、赤ちゃん言葉でしゃべることで“子どもだから激しい追及はしないで”――つまり甘えて誤魔化そうという意図があったのです。“この問題にうまく発言できないのはちょっとヤバそう”――その程度の理解はありました。
 ところが現代の「わかんな~い」は、ほんとうに分かっていない、そもそも問題の存在自体に気づいてさえいないと思わせるものがあります。

 インタビューの答えも、少し以前は、
「感染対策はしているし、まだ若いから重症化しないと思って(街へ)出てきました」
 今なら、
「(緊急事態宣言が出ても)、こんなにたくさんの出ているのだから意味ないと思う」
 私たちは彼らの自己本位や独善に驚き腹を立てますが、彼らが何も知っていないと分かれば、理解できないこともありません。

 あの子たちは何も知らない。
 家族が発熱したと聞いてからわずか1週間ほどであれよあれよという間に重症化し、ほどなく意識を失ったかと思ったら数日後には亡くなってしまう、その恐ろしさ。家族の死の床に立ち会えない、遺体に取りすがることができないどころか遠くから見守るだけで、次に触れるときにはお骨になっている、その悲しみ。
この一年あまり、私たち老人が毎日のようにテレビで見てきた風景を、「まだ若いから重症化しないと思って――」と答える若者は知らないのです。

 同い年くらいの看護師や医師が、毎日、肉体と神経を擦り減らして医療の現場で働いていることも、彼らがもう何カ月も病院とホテルだけの行き来で、家族とも会えないという状況も、テレビ等を通して見ることはなかった。

 そう考えないと、あの酷薄さは理解できません。
 街頭インタビューでそんな回答をしたとバレたら親に叱られるぞ、祖父ちゃん祖母ちゃんに泣かれるぞ、一部の友だちは賛同しても別の誰かからは呆れられるぞ、とそんな単純なことも分からない――。
 
 

【若者は常に忙しい】

 なぜそこまで情報が遮断されてしまったのか――これには「りんたろ-。」さんが直接答えています。
「興味深いコンテンツが増えすぎて、こちらが求めなくても入ってくるものが多い」

 そうです、彼らは新聞を読んでいる暇もテレビを見ている暇もありません。仕事が終わり、しばし遊んで家に帰ると、あとはスマホスマホスマホ――。
 Netflixで映画を観る者、Youtubeを次々と探る者、TwitterFacebookでコミュニケーションを保つ者。TikTokで踊る者、Instagramのために写真を整理する者、LINEで会話する者・・・それぞれやっていることは違っても、テレビや新聞を見ないという点では同じです。

 稀に政治や社会情勢に触れてもTwitterやネットニュースを通して入って来る情報には、かなり強いバイアスがかかっています。
 「まだ若いから重症化しない」も「こんなに人が出ているのだから非常事態宣言は無意味」もネット上ではありふれた意見です。そして最近流行しているのは、
「ワクチンは若者には危険だから、打たない方がいい」
です。

(この稿、続く)