カイト・カフェ

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「フランスは自由だが極めて不自由な国だ」~自由と不自由と安全・安心の物語①

 マツコに教えられたのだが、「自由」にはひとつ突き抜けた面がある。
 それは、自らの自由を守るためには、
 他者に不自由を強いなくてはならない場合があるということだ。
 しかし、だとしたら自由が多少減るのも我慢しようという立場もあるだろう。
という話。(写真:フォトAC)

【マツコ、自由を語る】

 実際に見た番組ではないのですが、今月15日の夜11時から放送された「マツコ会議」に、パリ在住の女優・杏さんが出演して近況などについて語ったようです。ネットニュースで読みました。
 記事によると、マツコ・デラックスに「9カ月暮らしてどう?」と聞かれた杏さんは「やっと家具が落ち着いたかな、雨漏りが半年前にあったのが工事やっときて、家がめちゃくちゃな状態ではあるんですけど、やっとスタートラインに立ったような気がしてます」と答えます。
 そこでマツコが「半年前に頼んだ工事がやっときたのよ」とツッコミを入れると、杏さんは「今日も来るというので知人に立ち合いをお願いしてたけど、すっぽかされたっぽい」と、さらり言い放ちます。それに対してマツコも、
「それも自由なのよ。自由の国だから」
と応じたと、記事ネタのスポニチは書きます。ここに私は魅かれました。
自由の国では仕事の依頼にまで縛られなくてもいい
のです。
 さすが一昨年の春、ロックダウン下のパリ・エッフェル塔で若者がバカ騒ぎをしてマクロンを激怒させ、遡っては英雄ドゴール大統領をして「人間を知れば知るほど、私は犬が好きになる」と言わしめたフランス人です。仕事にも約束にも縛られたくない。政府の言うことは政府が言ったというだけでききたくない、コロナ情報もクソくらえだ! 
――さすが市民革命で膨大な血を流し人権をもぎ取った国だけのことはあります。

 しかしそう言うと、いやいやフランス人に限らずドイツ人だって互いの自由を尊重し、土日は商店も休日にしてしまうよ、そんな言いかたをする人もいるかもしれません。
《みんなが休む日に、店を開ければ大儲けができるじゃないか》
というのは金に縛られた亡者の言うことで、自由の民は決して仕事に縛られることはない――と、そんな矜持さえ感じられる出来事です。ただしそれが日本人の気に馴染んでいくかどうか・・・。

【フランスは自由だが極めて不自由な国だ】

 「自由」という言葉は、福沢諭吉が中国語を参考にして”liberty”に当てた造語だと言われています。日本にはなかった概念ですから敢えて生み出さざるを得ませんでした。使い勝手の良い言葉なので、瞬く間に広がります。

 「自由」の反対語は「束縛」「統制」「専制」、これでほぼ間違いないと思います。日本には「不自由」という便利な言葉もあって、これも「自由」の対極にあります。しかし「不自由」をもう一度ひっくり返して反対語を探ると、これは「自由」というよりむしろ「自在」(自由自在のアレ)の方がしっくりきます。「不自由」が一義的に「不便」だとか「不如意」という意味だからです。
 
 何を言いたいのかというと、
「フランスという国は、なるほど人々は自由だが、個々の自由を大切にするが故に頼んだ修理がなかなか来ないとか、電車やバスが時間通り来ないとか、公衆トイレが汚くても気にしないだとか、何かと不便・不如意だ」
ということ、つまり
「フランスは自由だが極めて不自由な国である」
という、日本語としてはけっこう面倒くさい話をしようとしているのです。もちろん普通は「~自由だが不便」と書くべきでしょうが――。

【日本の学校をどう変化させずに済ますか】

 すべての「問題」は「程度問題」だと言った人がいますが、雨漏りという喫緊の事態に対して修理に半年以上かかるとか、列車が着くかどうかは駅に行ってみないと分からないとかは、日本人の感覚からすると一種の社会的機能不全です。
 だからといって修理依頼に対してはとりあえず一日以内に様子を見に来るくらいは必ずして、列車が10秒遅れても遅延お詫びのアナウンスが入る日本は、消費者にとってはメチャクチャ便利ですが、対応しなければならない方にすれば地獄みたいなものでしょう。
 
 その間のどこかに正解があるのかもしれませんが、「電車は30分遅れまでなら」「修理業者は3日以内に」と打ち出しても日仏双方で対応しきれないでしょう。フランスにはフランスの、日本には日本のやり方があるのだと納得し合うしかありません。それで不都合ならそれぞれ自分の国で改善すべきでしょう。
 
 さて、いま私が頭の隅で考えているのは、日本の学校をどう変化させていくのかという問題です。いや間違えました。正確に言えばいま私の頭の中にあるのは、「日本の学校をどう変化させずに済ますか」という超保守反動的な問題です。
(この稿、続く)