カイト・カフェ

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「『今すぐアンタとヤリたい!』と触れ回りながら生きる人生」~もしかしたら英語は勉強しておいた方がいいのかもしれない

 自らのTシャツに書かれた文字について、
 人々はどれくらい気を配っているのだろう?
 何が書かれているのか承知で突っ走っているのか、
 気づかないだけなのか、いずれにしろ考えなくては--。
という話。(写真:フォトAC)

【もしかしたら英語は勉強しておいた方がいいのかもしれない】

 私は英語がまるでダメなのですがそれで困ったことはほとんどありません。海外旅行に出た際は《英語ができたら便利だなあ》くらいは思いましたが、最低限の英会話ができるようになるまでにかかるだろうエネルギー・コストと、海外旅行に出る回数、旅行先での困難を秤にかけると、どう考えても大幅なコスト割れになります。

 英語の習得はあらゆる習い事の中で最も個人の能力に負うところが多く、私のような単純記憶の苦手な人間にとっては初期投資・追加投資が大きすぎるのです。なにしろ3年間も担任したわずか40人のクラスの、生徒の姓名を正確には半分も言えないかもしれないのです。何百もの英単語を覚えようとしたら、たいへんな努力をしなくてはなりません
 それに自動翻訳機や携帯の翻訳アプリは十分に使える水準まで能力を高めていますし、文書は生成AIに任せて問題はなさそうです。
 もちろん語学に能力があってしかも外国人と楽しく会話をしたいという人は自ら学習し、それで生計を立てたってかまわないわけで、それぞれ得意なことを生活の中心に据え、苦手なことはうまくかわして生きていきましょうという、ただそれだけの提案です。
 
 英語学習なんて昭和の昔に戻して、中学校に入ってから初めて学べばいいのです。その方が新鮮ですし、中学校入学のときにひとつくらいは、ほとんどの生徒の水準が揃っている教科があってもよさそうなものです。小学校のときに勉強が苦手だった子も、スタートラインが一緒の英語だけは頑張ってみようという気になる――それってなかなかいいことでしょ? ――と、以上はこれまで何十回も繰り返した蒸し返しの話です。
 しかしそんな私でも、珍しいことに《それでも英語の学習はきちんとやっていた方がいいかな?》と思うことがあったので記録しておきます。

【「今すぐアンタとヤリたい!」】

 96歳の母が心臓ペースメーカーを入れることになった、というお話はしました。その前段階で大病院の救急救命センター(ER)で診てもらった時のことです。
 ERに入ったのは主治医の指示と紹介状があったからで、別に切羽詰まった状況があるわけでもなく、私たちはのんびりと検査の順番を待っていたりしました。同じ待合室には直視に耐えないほど慌てふためいている人々もいれば、重苦しい雰囲気に包まれた家族らしいグループもいます。そのうちの一組、4歳くらいの女の子を連れた若いカップルに私の目は引かれます。
 父親らしい若い男性は上下黒い服装で落ち着いた感じですが、母親らしき女性は大きな麦わら帽に明るい水色のTシャツ、白いパンツにサンダル履きと、もちろん服装を選んでくるべき場所ではないので問題とは思わないのですが、背中に書かれた大きなロゴが、やはり場にそぐわないというか、とにかく変なのです。
 大きなローマ字で“I just wanna fxxk you”と書いてあります

 fxxkという単語は知らないのですが“x”がふたつも続く英単語は見たことがなく、発音のしかたも分からないので暇に任せて調べてみることにしました。スマホを持っていましたから――。
 するとfxxkの“xx”はローマ字の“x”を並べたものではなく、✕(バツ)のかわり、つまり伏字で、「fack」と書くのを憚っただけのことらしいのです。つまり母親は「私は今すぐアンタとヤリたい!」と背中に表示して子どものために右往左往していたわけです。
 この人、意味を承知でそんなTシャツを着ていたのでしょうか? 

【そこには単純ではない話が・・・】

 知らずに着ているとしたら、「やはり少しは英語、勉強しておこうよ」という話ですし、承知で着ているとしたら「保育園や幼稚園へは着て行かない方がいいかもね」という道徳、ないしは処世術の話になります。子どもが小学校に上がってからもそれを着て保護者の列に加わるとしたら、つまらぬところで波風を立てることになりかねません。

 ただこの“I just wanna fxxk you”、それだけでは済まないところに問題があります。というのはこれが単なるおふざけ人間の面白製品で、社会的広がりのないものならいいのですが、調べると「#FR2 FXXKING RABBITS」と名乗る、そこそこ有名らしい日本のファッションブランドの製品らしいのです。「FXXKING RABBITS」ですから、もちろんロゴは「交尾するウサギ」ということになります。
 ここに至って話は面倒なことになります。「いちいち細かいことを言うな、“I just wanna fxxk you”を翻訳するな、それはただのデザインなのだから意味にこだわるな」といった立場が想定されるからです。かつて「ポルノグラフィー」とう人気バンドがいて(今もいると思いますが)、音楽は私も大好きなのに、若い女の子が「私、ポルノが好き!」と言うのにいつまでも引っかかっていた、アレと同じです。知る人にとっては目くじら立てるような問題ではないのです。

【あなたの父親の代わりに私が話をしよう】 

 では「今すぐアンタとヤリたい!」を背負った母親に、何とアドバイスしたらよいのか――。私ならたぶん、こんな言いかたをすると思います。
「若くて独身で、守るべきものが自分一人だけの場合はいいだろう。冒険は若者の特権だ。傷ついたらまたやり直せばいい。しかし守るべき家族を持ったら考えた方がいい。というのはあなたの行為で傷つくのがあなた自身ではなく『家族』、ということが往々にしてあるからだ。特に子どもを傷つけるのは危険だ。どこまで深く傷ついてしまうかは、個々別々で予想がつかないからだ。
 この社会、一人で生きていても危険はつきものだ。しかし家族が増えればそのぶん危険も増す。例えば3人家族なら危険も独身の3倍、4人家族なら4倍にもなる。自然に降りかかる危険がそれほどある状況で、敢えて自ら危機を招き入れることはない。
 知る人ぞ知るブランド製品を着て『今すぐアンタとヤリたい!』と表示して回る快感と、家族の安全を天秤にかけてはいけない。いますぐそのシャツを脱いでごみ箱に捨て、普通の生活に戻りなさい。それがあなたの父親ほど、長い人生を経験した私からの助言だ。家族にはそれを越える見合う価値があるのだから」