政府の中枢から葛藤が消え、問題は市民レベルに下りてくる。
対立は深まりこそすれなくなることはない。
そこで国民を死なせることに何のためらいもない為政者たちは、
本気で戦争のことを考え始める・・・かも知れない。
という話。(写真:フォトAC)
【政権内部の闘争が外部に移行する】
内政に困難を抱えた政府が、戦争によって国内をまとめようとする愚行は昔から繰り返されてきたことです。
逆に言えばここ数年、世界第二位の経済力をもって飛ぶ鳥の勢いだった中国が、わざわざ国際秩序を乱し、南シナ海に進出したり台湾に圧力を加えたりするのは、内部が外から見るよりははるかに難しいことになっていたからかもしれません。特に中国の政権の内側はまったくうかがい知ることができませんから、そういう視点で気に止めておいた方がいいことなのかもしれないのです。
おそらく今回の指導部刷新で政権内部の矛盾は解消されたでしょう。しかし反周近平の人たちが代表していた利害は今後まったく考慮されませんから、矛盾は政権内部から外へと移行される可能性があります。
そう考えるとここのところ急に見られるようになった北京市内での、反政府の横断幕やらスローガンやらといったものも、別の姿で見えてきます。
【中国の外交はなぜこうも乱暴なのだろう?】
中国もロシア同様、手下はいても友だちのいない国です。友だち作りがとてもへたなのです。
「一帯一路」の経済圏構想といっても共存共栄ではなく、いつの間にか主従関係を基礎とした支配の構造を積み上げてしまいます。欧米諸国が見向きもしない発展途上国の独裁政権を援助して、支持を取り付けるとともに、インフラを整備しながら債務の罠を張って一部海外の港湾を手に入れたりもしています。
インフラ整備と言っても労働者のほとんどは中国から連れて来られますから、地元に金が落ちず、経済活動は停滞したままで借金ばかりが残るのです。これでは中国嫌いの国民をつくるだけです。
南シナ海ではフィリピンとベトナム沖の島嶼を次々と軍事基地化し、台湾に対する野望も隠しません。香港を国際的な衆人環視の中で押しつぶし、ウイグル自治区の弾圧・同化政策に至っては一切情報が出ないようにしています。
戦狼外交と呼ばれるこうしたやり口は何のテライもない明け透けなもので、私などはもう少しスマートにできないものかと思うのですが、まったく考慮する様子がありません。まさに傍若無人です。
【戦争はほんとうに起こるのか】
世界第三位(または二位)と言われる軍事力については、どこまで本物か分かりにくいところです。ほぼ同等と見積もられているロシア軍がウクライナであの体たらくですから、朝鮮戦争以来一度もまともな戦争を戦ったことのない「一人っ子小皇帝軍団」は、意外と張子の虎なのかもしれません。
ただ、それでも物量は圧倒的で、指導者は伝統的に国民が何万人死のうが苦にしませんから危険といえば危険です。
1957年11月に旧ソ連で開かれた社会主義陣営の各国首脳会議の席上、フルシチョフ第一書記が「西欧との平和共存論」を提唱すると、毛沢東は真っ向から食って掛かってこう言ったといわれています。
「われわれは西側諸国と話し合いすることは何もない。武力をもって彼らを打ち破ればよいのだ。核戦争になっても別に構わない。世界に27億人がいる。半分が死んでも後の半分が残る。中国の人口は6億だが半分が消えてもなお3億がいる。われわれは一体何を恐れるのだろうか」
朝鮮戦争で40万人もの兵を、酷い人海戦術で死なせてしまったばかりの毛沢東が言うわけですから迫力があります。周囲の人々はそのとき凍りついたと言われています。
毛沢東のできることは鄧小平もできます。そしておそらく周近平もできるはずです。
【何をするか分からない人が支配者になる国】
私の中では「中国は何をするか分からない国」――いや正確に言えば「中国は何をするか分からない人を支配者に戴く国」です。
内政は今後も悪くなる一方でしょう。米中対立も解消の見通しはなく、表向きの盟友ロシアの凋落は明らかです。
10年かかってもできなかった台湾統一も、そろそろ具体的成果を見せなくてはなりません。3期15年もかかって「中国の夢」を実現できなければ、4期目・5期目もないと人々は考え始めるかもしれないからです。
さてそこで、子どもたちにそれをどう伝えるのか――。
(この稿、終了)