「部活の地域移行、どこでもできるわけじゃない」~土日の部活がなくなると平日の時間外勤務が減少するという怪 

 スポーツ庁有識者会議が、部活の地域移行に関する提言案をまとめた。
 テレビニュースは地域移行に成功した先進校を紹介するが、
 どこのとしでもできるというものではない。
 さらにそれで教員の過剰労働が解消するわけでもない。

 という話。

(写真:フォトAC)

有識者会議、部活の地域移行を提案する】 

 一昨日の夜、NHKは部活動の地域移行に関するニュースを繰り返し伝えました。それによると、
「部活動を地域に移行していくための課題を議論してきたスポーツ庁有識者会議は、31日、指導者の確保策や大会のあり方などを盛り込んだ提言案をとりまとめました。6月にも有識者会議の正式な提言としてスポーツ庁に提出されます」
とのことです。

 私は夜7時のニュースとニュースウォッチ9で同じ内容を見ましたが、地域移行がうまくいっている学校の例として取り上げた二校が、それぞれの番組で異なっていたことには驚きました。内容の使いまわしをしなかったわけです。

 7時のニュースが扱ったのは茨城県つくば市立矢田部東中学校、ニュースウォッチ9は岐阜県羽島市竹鼻中学校です。

 通常、テレビニュースで文科省の方針がうまく実現できている学校が紹介されるときは、ほぼ確実に文科省か県指定の研究校です。研究予算をたんまりもらい、市町村の強力なバックアップを背景に、2年余りも没頭しての研究なのでうまくいかないはずがないのです。
 案の定、矢田部東中学校は県の「運動部活動運営の工夫・改善研究校」で、2020年から3年越しの研究成果が、いま出てきているわけです。
 竹鼻中学校についてはこれといった研究指定があったわけではないようですが、部活の見守りなど保護者の負担が大きい伝統があり、それを解消するというのが地域移行の発端だったみたいです。
 そして両校に共通するのは、社会環境に恵まれていたということです。


【地域移行のうまくいく学校の特殊性】

 いうまでもなくつくば市は、旧東京教育大学の流れを組む筑波大学がつくった研究都市です。Jリーグ入りを目指すサッカーの「つくばFC」やVリーグ2部バレーボールチーム「つくばユナイテッド」、野球は筑波大学大学院野球コーチング論研究室、陸上はNPO日本スポーツアカデミー(旧つくばスポーツアカデミー)と、受け皿はいくらでもあるのです。必要なら筑波大学の学生を組織化すればいくらでも働いてくれます。何しろ教師の卵の牙城なのですから。

 一方、羽島市竹鼻中学校の近くには「はしまなごみスポーツクラブ」というクラブがあり、ここが竹鼻中学校全12運動部の休日指導を、一手に引き受けることになったのです。
 費用は個人負担で6900円(年間)。竹鼻中学校の生徒数はおよそ550名でその8割が運動部だとすると、年間300万円ほどの収入。これで利益が出るかどうか疑わしいのですが、運動部を丸ごと引き受けてくれる組織があったのは僥倖でした。

 以上が地域移行をうまく果たした代表的な2例です。
 さて私たちの町に照らして、可能性はあるでしょうか?


【人口40万人の都市でも人材は探せない】

 NHKのニュースはまた、地域移行に困難をきたしている例も挙げています。
 同じ取り組みをしている千葉県柏市は、1校に必要な指導者を集めるのに2カ月を要したと言います。来年度は全中学校に広げるためにさらに200人必要だそうですが、掘りつくしたところから探し出す200人ですから容易ではないでしょう。
 人口41万人の柏市ですらこうですから、地方の中堅以下の都市では話になりません。
 先に挙げた竹鼻中学校にしても、羽島市内にはあと三つの中学校がありますから、そちらまで手が回り切れるか。
 スポーツ庁有識者会議は、どういう目算があってこのような提言案を出そうとしているのでしょう。

 私は単に文科省の提案を潰したいと思っているのではありません。
 部活の地域移行の失敗はもう10年以上も続いているのです。いま再び(あるいは三度)失敗を繰り返すことで、本質的な問題解決が先延ばしにされるのが嫌なのです。
 学校部活は、本気でいったん全部をぶっ潰すような荒業でもしない限り、結局、教師の元へ戻ってきます。だとしたら校内の部活環境を整えない限り、部活に食いつくされる教師の生活は変わるはずがないのです。


【土日の部活動がなくなると平日の時間外が減る怪】

 話は少々変わりますが、一昨日の部活に関するNHKニュースを見ながら、「こりゃあ明日のネットは大騒ぎになるぞ」と思った部分がありました。そして大騒ぎにならなかったことに軽い衝撃を覚えています。

 それはニュースウォッチ9で、
「土日の部活動を委託してから、残業時間は減少。先生1人当たり、平均月13・3時間短くなりました。ゆとりが生まれた分、授業や生徒指導に、より時間がかけられるようになったと言います」
と説明された部分です。そのあとのインタビューでも先生が、
「(土日の部活動を)委託することによって、事前にいろいろな準備ができるので、子どもと接する時間が増えたかなって思います」
とおっしゃっておられました。
 普通に考えたら変でしょ? 土日が空くと平日の残業時間が減るのです。

 しかし部活を担当した教師ならわかるでしょう。私も大会が終わったあとは思ったものです。
「ああ、これでやっと土日に落ち着いて仕事ができる」
 そうです。特に大会前(4月~7月、9月~10月)は練習試合がたくさん入るので、土日がまったく使えなくなります。そうなると本来は土日にやるべき授業準備や運営計画がほとんど平日回しになってしまうのです。インタビューに答えた先生の「事前にいろいろな準備ができる」の“事前”は月曜日の前、という意味です。

 繰り返しますよ、本来は土日にやるべき授業準備や運営計画が平日回しになる。それが委託によって休日にしっかり働けるので、平日の超過勤務が減る。
 NHKはまるで気づかなかったかのようにサラッと流し、視聴者もほとんど引っかからなかったようです。
 しかし私は怒っています。教員の多忙はタマネギのように、いくら剥いても簡単には解消しないのです。NHKはその大切なところを、素通りしてしまいました。
 
(追記)
 今朝(6月2日朝)の7時のNHKニュースで改めて矢田部東中学校が取り上げられ、今回は主として問題点が紹介されていました。
 ひとつは矢田部東中学校の運動部の中にも外部委託のできない部があること。水泳部は地域のスイミングスクールに打診しても条件が合わず、いまも探し続けているということ。
 もうひとつは年間300万円ほどかかる外部委託運営費について、これまで三分の一ほど占めていた国からの補助金がなくなり、外部指導者による休日指導を減らさざるを得ないことです。減った分は本来の顧問が補わなくてはならないでしょう。

 ただ、それでも月2回以上のプロによる指導は、矢田部東中学校運動部をものすごく強くするはずです。そうなると周辺の学校は、どんな犠牲を払ってでも同等以上の体制をつくらざるを得なくなります。
 毎月1万円も親に払わせるわけにはいきませんから、結局、大半はつくば市が出すことになるでしょう。そんなお金があるなら講師を数人雇ってほしいと考えるのは、私くらいなものかもしれませんが。