カイト・カフェ

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「学校から部活をなくす万策は尽きた」~私の“教員の働き方改革”案② 

 部活動を制限する試みは、これまで30年以上に渡って行われてきた。
 しかしいずれも失敗するどころか、制限が無制限を引き起こすことさえあった。
 結局、学校から部活動はなくせない。
 できるのは現在の姿のまま、教員の負担を減らす必殺の方法を編み出すことだ。

という話。

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(写真:フォトAC)
 
 

【部活は必ず加熱する】

 教え子がコート上でなぶり者になることは耐えられない――そこでバレーボール部の顧問をしていた時、勝てなくてもいいからせめて相手の半分以上の点数は取りたい、そう決心してドツボにははまりました。いかに市内大会とはいえ、のちの優勝校から確実に半分以上を取るとなると、上位5位以内くらいの強いチームをつくっておかないとダメなのです。
 やがて私は練習の鬼になりました。

 もちろん私が優秀な顧問だったら“鬼”になる必要もなかったでしょう。しかしバレーボールは学校体育でやった程度のずぶの素人で、一生懸命勉強しましたがうまくいかないことも多かったのです。

 部活動の過剰が問題となってからマスコミは一流のコーチの談話を通して、「練習は時間じゃない。いかに効率よく行うかだ」などと記事にしますが、私のような人間には「一流のコーチング技術を学べば」とか「8時間~10時間といった長時間の練習は必要ない。毎日5時間もやればいい」といったカッコつきの、あるいは別格の話にしか聞こえません。隣の学校が練習時間を30分伸ばしたと聞けば追いかけるしかないのです。
 部活動をいかに抑制するかという30年来の課題がいまだに解決しない背景には、こうした事情があります。
 
 

【部活問題が生徒の健康問題から教員の労働問題に移る】

 部活動の抑制は最初、時数制限・日数制限として始まりました。休日の練習は土日のいずれか一日のみ、しかも2時間以内とか、週日には一日休業日を設けるといった具合です。これは教育委員会が横並びで強制するため比較的うまく行きました。当時、部活問題は生徒の健康問題・生活問題でしたから制御し易かったのです。
 ところがここ十数年は教員の労働問題・健康問題として部活の見直しですから、ことは簡単ではありません。部活動の大部分は勤務時間外に行われているので、その部分を丸ごと削ってしまうと、昨日お話しした生徒・保護者・関係団体・一部民間企業が容赦しないのです。
 したがって課題は次のように記述されます。
「いまの部活の水準を維持したまま、教師の負担をだけを減らすにはどうしたらよいのか」
 さて、何ができるか?

 まず提案されたのが「社会体育への移行」です。部活動を学校から地域活動に移そうという計画です。しかしそうは言っても地域に既存のバレーボール組織やバスケットボール団体、吹奏楽グループがあるわけではありません。そこで新たに立ち上げることになるのですが、いったい誰がやるのか――。

 当面は部活ごと保護者が運営委員となり、学校長を顧問としてスタートすることになります。校長が入ったのは学校代表としての橋渡しということもありましたが、むしろ行政の意を反映するといった面が強いものだったのです。ところがこれがとんでもない事態を引き起こします。
 
 

【無制限の練習、果てしない時間外労働】

 組織はできた役員も決まった、これで少なくとも休日は学校職員の手を離れてチームとしての活動が始まる――予定でした。ところが実際にはそうならなかったのです。理由は簡単です。社会体育のチームは専属のコーチ・顧問を見つけ出すことができなかったのです。
 子どものために活動するボランティアを見つけるのは難しいことではありませんでした。いざとなれば親がやればいいことです。しかしそのボランティアにバレーボールやバスケットボールの指導ができるかというと話は違ってきます。ましてや吹奏楽の指導ができる人材など、そう簡単に見つかるはずがありません。そこで困った保護者たちは部活顧問に泣きついたのです。

 かくして顧問教師は、勤務時間内は部活顧問として、時間外は社会体育のボランティアコーチとして、同じ生徒の対応に当たることになります。しかも以前と違って、社会体育は学校の制約を受けませんから、土日はいずれか1日とか、午後の部活は2時間以内という枠もなくなってしまいます。
 部活をやりたくて仕方のない顧問にとっては最高の贈り物で、中には放課とともに部員をいったん帰宅させ、軽い夕食を摂らせてから再登校させて、そこから社会体育としての練習を3時間~4時間とさせる顧問も出てきたりします。もちろんそこまで意欲のない顧問も追従せざるを得ません。生徒をなぶり者にしたくありませんから。
 かくして練習は無制限、練習試合も果てしなく行う時代がやってきたのです。
 
 

【金を出しても外部コーチは集まらない】

 もちろんそんな異常が長く続くわけがなく、ここに至ってようやく行政は金を出すことを決め、外部講師を雇い入れる道を開きます。ただし講師料と言っても時給1000円~2000円程度で、地区大会直前といった最も練習量の多い時期でも月収10万円を越えるのがやっとといった状況――なかなかなり手がいません。

 2年ほどにNHKニュースが扱っていましたが、取材に応じてくれた外部講師はいわゆる教職浪人。コンビニのバイトと部活コーチと採用試験勉強の三足の草鞋を履く若者でした。熱心なよい顧問と見えましたが、この人に継続的な顧問もやってもらうためには、採用試験に落ち続けるとともに、いつまでも夢を追ってもらう必要があります。そんなことを願うのは、やはり人間とは言えないでしょう。
 また、ニュースでは紹介していませんでしたが、取材を受けた学校ですべての部活に外部コーチがついているわけでもなさそうです。一地域にそんな前向きな教職浪人がウジャウジャいるといった現状はなさそうですし、吹奏楽だの美術だのといった特殊な部活を引き受けてやろうという人材がいない状況は、どう転んでも変えようがないのです。
 
 

【何をやっても学校から部活はなくせない】

 行政は“いくらでもカネは出す、だから外部講師を探してこい”という、しかし学校は必要なだけの外部講師を見つけられない、だから相変わらず教員が顧問を続けている――これが現在地点です。

 部活の今の水準は維持しなければならない。しかし金を積んだところでおいそれと人材は集まらない――一方で少子化のために部員不足の部活もあるから、複数校でチームを持つようにしたらどうかというアイデアもあります。しかしそうなると放課後の生徒を、誰かが練習場所に運ばなくてはならなくなります。
 アメリカのクラブチームはおおむねそういう形です運営されていますが、そのために保護者は時間休をとって一時帰宅したり、ベビーシッターを雇ったり、ママ友グループをつくって交代で移送するとか、たいへんな苦労をさせられています。

 そんなことを日本の保護者にさせるわけにはいきません。社会は「放課後の子どもの世話を学校がみる」ということで動いていますし、それは保護者の既得権なのです。
 少子化対策のために親の負担をできるだけ減らそうという時代に、そんな無謀が通るはずがありません。
 そうなると、あとは部活動を今の状況で学校に残したまま、教員の負担を減らすというすご技を編み出すしかなくなります。

(この稿、続く)