「アスリートと担当者と、そして無名の人々」~東京2020オリンピック・メモ③ 


 東京オリンピック2020がとりあえず、何とか、終わった。
 賛否両論、評価はさまざまだが、やはりやるしかなかった。
 そして終わった。
 大過なく終えることができた、そのこと自体はよかった。
という話。

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(写真:フォトAC)
 
 

【とりあえず何とか終わった】

 東京オリンピックもメダル数金27、銀14、銅17、計58個という大変な記録を残して終わりました。
 当初から「オリンピックも金メダル30個となれば反対論も吹っ飛ぶ」といった不遜な言い方がありましたが、日本選手が活躍したから、ネット上の評価が肯定的なものへ変わったから、各社のアンケートで「やってよかった」が多数になったから、成功だったとする考え方に私は与しません。

 開閉会式は地味でつまらなかった、これほどの感染拡大を引き起こした責任は重い、といった批判もありましたが、こちらの側にも賛成しかねます。

 今回のオリンピックに関して言えば、日本人選手が活躍したとか、開閉会式の演出がどうだったのかはみんなどうでもいいことです。新型コロナ第5波感染拡大はオリンピックを中止にしていれば防げたというものでもありません。そのことは現今の世界の感染状況を見れば一目瞭然です。

 選手・役員を選手村に封じ込める作戦に一部にほころびがあり、ワクチン接種を条件としていたにもかかわらず、選手村に毎日感染者が出たり、あるいは競歩・マラソンといった競技で予想外の人出があったこと、一部競技会場を覗き見できる場所に観衆が集まったことなど、計画通りできない部分もありましたが、それが自由主義社会というものでしょう。
 軍人でもない一般大衆が完全に計画取り動くとしたら、むしろその方が恐ろしいことです。

 では今回のオリンピックは何が目的でどう評価したらよいのか――。

 それは単純で、オリンピックのために尋常でないエネルギーや時間、資金・人間関係を注ぎ込んだ人々の努力に報いるための大会であり、評価の基準は「競技会は最後まで、大きな破綻をせずに行われたか」
です。
 
 

【日本人アスリートたち】

 選手たちのオリンピックにかける思いは、その発言を聞くだけで分かります。
 女子柔道で最初の金メダルを取った阿部詩は開口一番、
「ほんとうに、東京オリンピックがあるかないか分からなかった状況なんですけど、このように開催していただいて、私は金メダルを取ることができたので、もう初めてのような感覚が、決勝が終わった後には、舞い降りてきました」
と語り、その20分後に金メダルを獲得した兄の一二三の最初の言葉も、
「本当にすごく大変な時期に五輪開催をして頂いて、僕たち選手はありがたいです」
でした。

 バスケットボール女子の主将・高田真希は、
「体が小さくても、海外の選手に勝てるんだと証明できたことはうれしいです。大会が開かれなければ、この結果もなかった。たくさんの方々の協力で開催されたことに感謝しています」
と語り、空手の形の銀メダリスト清水希容は、
「こんな状況で、オリンピック自体も開催できるか分からない状況で、開催していただけたこと、本当員感謝しています」
と涙ながらに強い口調で語りました。

 今回メダルの手の届かなかった競泳の池江里佳子も
「無事に五輪が開催できて、また戻ってくることができて本当にうれしいです」
と涙ながらに語り、閉会式ではアーティスティックスイミングの乾友紀子らが、
「開催して下さりありがとうございました」
と書いた国旗を掲げました。競技ができたことの喜びは、必ずしもメダルとは関係がないのです。
 とにかく開催してもらったことが、通常の意味でも、語の本来の意味でも、有り難かったのです。
 
 

【海外のアスリート】

 そうした思いは日本人アスリートばかりではありません。
 ボート女子・英国代表のエミリー・クレイグはツイッター上で、懸命に覚えたと思われる日本語を使って83秒間、感謝の気持ちを伝えました。
「日本と東京のみなさん、私たちから感謝の気持ちをおつたえしたいと思います。オリンピックが延期されました。オリンピックができるならそれは東京しかないと信じていました。日本の皆さんの努力のおかげで、私たち何千人ものアスリートが、夢を見ることができました」
 そして文でも、
「東京の皆さん、私たちを歓迎し、五輪を開催してくれてありがとうございます」
と残しました。

 男子マラソンの優勝者エリウド・キプチョゲ(ケニア)はインスタグラムに、
「オリンピックドリームというのは特別な夢です。全てのアスリートが人生を懸けて準備をし、ここにたどり着くのです。(中略)日本の皆さんと大会組織委に対し、五輪を開催するために信じられないような仕事をしてくれたことに感謝したいです」
と記し、ジャマイカの短距離選手エレイン・トンプソンヘラもツイッターに、
「東京、私を受け入れてくれてありがとう」
と英語で記し、続けて、
「ありがとうございました。さようなら」
と日本語で書き込みました。


 英公共放送『BBC』は、「サヨウナラ!」と銘打った速報記事で次のように評しました。
「我々はもう東京オリンピックが開催されないと思っていた。だが、彼らは見事に大会を成功させ、世界を大いに楽しませた。多くの日本人が不確実性、疑い、怒り、懐疑を抱いたなかで、延期の末に進行していった今大会について、『成功』という答えを留保している人もいる。その一方で永遠に記憶に残る時を過ごした人々がいるのも事実だ。我々はこの時を永遠に忘れはしない」
 
 

【その他、無名の人々】

 競技会ですからどうしてもアスリートたちに目が向きがちですが、東京オリンピック2020を実現させるためには、陰にさまざまな人々の異常な努力がありました。

 開閉会式の企画をした人々は一部からつまらなかったと叩かれていますが、従来の式のように派手で豪華で、ポケモンやスーパー・マリオが飛び交うような企画だったら人々は満足したでしょうか。
「新型コロナで国民が苦しんでいる中で、このお祭り騒ぎはなんだ」
といったニュースの見出しが目に浮かぶようです。ポケモンに金をかけるならコロナ対策に回せといった声まで聞こえてきます。
 私なんか開閉会式はリモートでもいいくらいに思っていましたら、あれでも十分に豪華でした。品よく、よく抑えたものです。

 最初から躓いて突貫工事で最高級のものを完成させさせなければならなくなった国立競技場、及びその他の施設の建設関係者たち、選手村運営の計画立案者と実践者たち、輸送の担当者、警備の方々、それぞれの工夫で選手たちをもてなしたボランティアの皆さま、地方会場の関係者たち――数え上げたらきりがありません。
 彼らの費やしたエネルギーと時間と費用は、やはり捨ててはならないものでした。

 アメリカ体操女子のエース、シモーン・バイルスはいくつかの種目で棄権した理由として、
「今大会は1年間の延期や無観客での開催など、いろいろな要素が重なって、非常にストレスがたまっていた」
と説明しています。一年の延期というのはそれほど重かったのです。
 それが中止となれば、多くのアスリートや関係者の意欲や人間性に与えた打撃は相当なものだったはずです。

 やはり東京オリンピックはやるしかありませんでした。
 やってよかったという話ではありません。