カイト・カフェ

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「私は理解できない」~王様の耳はロバの耳、かもしれない①


【王様の耳はロバの耳かもしれない】

 財務省福田事務次官の辞任が今日にも認められる見通しであることから、昨日、野党の代表者が財務省を訪れ、23日(昨日)中の謝罪と処分を行うよう強く求めたと言います。(2018.04.23毎日新聞

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 辞任が決まった後では処分ができないため、退職金5300万円が満額支払われてしまう恐れがあるのだそうです。

 今回の事件さえなければ、間もなく拍手と花束で無事財務省をあとにできた人です。それが一敗地にまみれ、汚名は世界に広まり、ロクな再就職先も与えられず放逐されるのです。私の心はこの時点で凍りつきます。
 もう十分じゃないか、この上退職金まで奪われほどの悪いことをしたのか、現段階ではまだ事実関係さえ明らになっていないじゃないか――それが私の感じ方です。
 しかし世の中はそうではありません。マスメディア、世論、野党、その他すべてが、福田次官および財務省を絶対に許さないという強い気持ちで動いているようなのです。

 私の感じ方がいかにも昭和の年寄らしい、現実が全く分かっていないものだというならいいのです。しかしそうでなく、ある種の熱狂の中で事が進んでいるとしたら、それはあまりに危険です。今回の事件は決着の仕方次第では、政治のあり方、報道のあり方、社会道徳のあり方に大きな変化を与えるものです。したがってひとたび取り扱いを間違えば、後々たいへんなことになりかねません。

 王様の耳がほんろうはロバでなかったら、ロバの耳だと思い込んだ私が非難され恥をかけばいいだけのことです。
 しかし実際にロバの耳であって、多くの人々がうすうすそれに気づきながら黙っているとしたら、誰かが声を上げなくてはなりません。そうしないと真実が王冠の中に隠されてしまうからです。
 正直言って自信はないのですが、私も、今思うことを記録しておきたいと思います。

【たくさんの疑問】

 まず思うのは、法的な意味であれはセクシャル・ハラスメントに当たるかどうかということです。
 もちろん相手が会社の上司だったら間違いなくセクハラです。しかし今回の場合、必要なら誘われた酒場に行かないという選択肢もあったのではないかと思うのです。もちろん会社を通した人間関係ですから「そんな失礼なことはできない」とか「不義理はできない」といったことはあろうかと思います。だったら会社に部署変更を願うことだってできたはずです。
 それにも関わらず、1年半にも渡っていわゆる「番記者」のような状況にあった。それは当然行うべき危険回避の権利を行使しなかったということにはならないか、ということです。

 第二は、隠しマイクで録音することが、なぜ自分の身を守ることになると考えたかという点です。
 もちろん目の前にICレコーダーを置いて録音することは「身を守る」ことにつながります。あるいは「前回のひどいセクハラ発言があったので録音しました。今後同様のことが続けばそれを公表しますからよろしく」と言えばそれも抑止力になるでしょう。しかし相手が全く気づかない状況でとった録音データが、どう身を守るのか、私には理解できません。
 それが使えるのは、先ほど言った「以後セクハラ発言をやめるように」と釘をさす場合と相手をハラスメントで訴える際の証拠とすること、あるいは音声データと引き換えに価値ある内部情報をもらうこと、そのくらいしか思いつかないのです。

 第三に、そもそも記者は呼び出された酒場に何をしに行ったのかということです。
 もちろん「取材に行った」が一義的な理由でしょう。しかし正式なインタービューだったら酒場という設定が変です。おそらく一対一で語られる特別な情報が欲しくて行ったのでしょうが、それだけで済む場所とも思えません。

 一方、福田次官は何をしに来たのか。
 財務省の情報をリークしてそれで政治に影響力を行使しようとしたのかもしれません。あるいは彼女が持っている情報に興味があって、それと引き換えにこちらの情報を渡すつもりだったのかもしれません。
 いずれもありそうなことですが、この二人に限って言うと、音声データからそんな緊張感はまったく伝わってこないのです。
 記者の欲しがっているものは分かります。しかし福田次官が欲しがっていたものはなにか。スケベ盛りの中年男が、若い美女を前に欲しがるものと言えば――。
 私には想像がつきます。彼女には理解できなかったのでしょうか。理解した上で結局我慢ができなかったということなのでしょうか。
 そしてそのことは第四の疑問につながります。
 会社は、女性記者にそうした危険が及ぶことを考えなかったのか、その場合の対応について前もって用意していなかったのか。

 第五の疑問は、音声データを週刊新潮に渡すことによって、女性記者は何を達成しようとしたのかということです。
 社会正義を果たそうとしたのか、それとも一年半も突き合わせてロクな情報も出さなかった恨みを晴らそうとしたのか。そもそも福田次官の魔の手から逃れたいという一心だったのか。

 明日、それらについて考えてみたいと思います。

                             (この稿、続く)
イメージはジランシスコ・デ・ゴヤ 「魔女の夜宴」(パブリックドメインQより)