カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「キャッシュレスの時代」〜現金のない時代は来るのかな

 最初にコンピュータを買ったのは1983年のこと、専門家以外では最も早くに飛びついた一人でした。当時教員の中にコンピュータを持っている人はひとりもおらず、プログラムを組めると言っただけで別格でした。そのくらい時代の先端を行っていたのです。
 そんな私が、しかし今やありきたりの、普通の「遅れた年寄り」です。世の趨勢についていけない・・・。

 そんな私がご多聞にもれず、早すぎる世の流れを嘆くというか、あまりに簡便になりすぎる時代に警鐘を鳴らすというか、不満を漏らすとか、そういったたぐいの話なのかもしれないと自分でも迷いながら、一つの問題提起をします。
 それは「いつか、世の中から現金はなくなってしまうのか」といった問題です。

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 ホラ、笑ったでしょ? そんなの当たり前じゃないかと思っておられるのですね。

 でもいま笑ったような人はつい30年ほど前にも大勢いて、その人たちは「21世紀はペーパーレスの時代だ」とか「21世紀になったら紙の本はなくなる」とおっしゃっていたのです。
 しかし、確かに包装紙を中心として紙全体の消費量は減っていますが、印刷情報関連の用紙は減っている様子がありません。それどころかPPC用紙は増える一方です。コンピュータの最も近いところで紙は増え続けているのです。

 同じように「若者の本離れが進んだ」とか「書籍が売れなくなった」という話はあっても、今後百年以内に書物そのものがなくなってしまうと考える人は稀でしょう。紙の本には紙でなければならない良さがあります。電子化が進んでかえって書物の価値は見直されたと言ってもいいでしょう。

【現金はなくなるのか】

 最近なにかと東京に行く機会が増えて、行けば美術館巡りだとか博物館だとかあちこち移動するのですが、娘に教えてもらって手にしたSUICAの便利なこと、便利なこと――。
 カード一枚持ってさえいれば、乗換駅ごとに運賃を確認し財布を取り出して切符を買うという手間がいらない、乗車駅と乗換駅・降車駅さえ確認しておけばスイスイと移動することができます。私のスマホは「アイフォン6」なのでダメだそうですが、「7」以降だと「モバイルSUICA」というのがあって、携帯をかざすだけで通過できるそうです。本当に便利になったものです。
 またコンビニに行ってもレストランでも、何らかのカードを使って買い物や支払いをする人が以前より格段に増えています。携帯をかざしまくっている人もいます。
 そうした状況を見ていると、キャッシュレスの時代は目の前に来ているようにも思えますが、ほんとうにそれでいいのでしょうか。

【海外の場合は】

 確かに例えば中国のように、偽札や詐欺に常に悩まされてきた国では電子決済への移行もやむを得ないでしょう。
 発展途上国などに行くと手油でベトベトシナシナになった紙幣を渡されることがあって、そんなときは電子決済がありがたいなと思ったりもします。
 スリや泥棒の横行する国では現金の携行は危険です。
 あるいはフィンランドのように、(日本では当たり前の)785円の買い物をするのに1085円を渡して300円のお釣りをもらうというワザの利かない国、そのたびに千円札を出すような買い物をするので小銭が山ほどたまってしまう国では、やはり電子決済が必要でしょう。
 けれど日本はそのいずれでもありません。

 現金主義で困るのは、高い買い物をするときや、持ち合わせがなくて必要なものを買えない時くらいなものです。
 そしてその「持ち合わせがなくて必要なものが買えない」ことこそ、私にとって現金主義の最大の利点なのです。

【懐と相談する】

 もし日本に中国並みの「街の屋台でも電子決済」という時代が来たとして、その時私は欲しいものをどこまで我慢することができるのか――。
 もともとむしろケチなくらいですからカード破産といったものまで心配する必要はありません。しかしその都度財布の中身を思い浮かべてやってきた「あれを食べようかこれにしようか」「もう一品増やそうかやめておこうか」といった節約計算は、電子決済では起きようがないですよね。たかが千円くらいの違いですから。

 けれど現金主義では常にそうした計算に曝される――。特に貧しくなくても忙しさのために銀行やATMに行く暇がないと、どうしても財布の中身は寂しくなり、懐との相談の機会は増えます。相談すれば「やめておけ」とアドバイスされることも少なくありません。

 そんなふうに諦めてきた、その都度その都度の100円、200円、あるいは10円、20円の積み重ねは、けっこう大きかったと思うのです。特に若くて収入の少なかった時代はそれで生活が維持できた側面も少なくありません。タクシー代が足りなくて2時間も歩いた日は、2000円も3000円も節約できたことになります。

【そして結論へ】

 ところで中国の急速な電子決済化、あれはどんな未来を生み出すのでしょうか? 

 中国と言えば30万人もの担当者がネット監視をして削除やら摘発やらをしている国ですよね。そこでは電子決済も政府によって一元的に管理されています。
 さらに14億人もの人口があって100万人もの就職できない大卒生(蟻族)のいる国なのに無人コンビニとかが流行り始めていて、これが顔認証とスマホによる電子決済なのだそうです。
 顔写真まで国家に把握されてしまっている――。

 そうなると20年か30年先には個人の収支がすべて政府に把握されてしまい、急に収入の増えた人間、羽振りの良くなった人、正規の収入ではとうてい買えないような高額商品の購入者は、顔写真付きですぐにリストアップされることになります。
 もしかしたら数十年後、中国は世界で最も犯罪の少ない安全な国になっているかもしれません(官僚以外は)。それでいいのかどうかは別にして――。

 以上、いろいろ抵抗してみましたが、やはり私も「長い目で見れば現金はなくなるだろう」と思います。便利さには勝てません。
 目に見えない細かな節約など、単なるノスタルジーに過ぎませんから(ノスタル爺かな?)。

 昭和は遠くなりにけり、ですね。