カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「真実はネットの中にある」③

 ミュージカル映画の傑作「サウンド・オブ・ミュージック」の最後は、ナチの追及をようやく逃れたフォン・トラップ一家が、アルプス山脈を越えてイタリアに向かう場面でした。「すべての山に登れ」という曲が流れる中を、彼らが最終的に向かったのはアメリカ合衆国です。
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 1940年7月下旬から8月末にかけて、リトアニアカウナス領事館では領事代理の杉原千畝が、ナチスの迫害から逃れてきたユダヤ人のために大量のビザを発給し続けていました。彼は9月5日、転任先のベルリンに向かう列車に乗り込んでもなおビザを発給し続け、その数は総計で6,000通にも及ぶと言われています。
 ただし杉原の偉業は、日本を経由した先にアメリカ・カナダという難民を確実に受け入れてくれる国があったからこそできたことです。

 その偉大なアメリカ合衆国が、今、死のうとしています。

 現在の私には話しかける児童・生徒も教える教室もありませんが、もしその任にあって理解できる子どもたちがいたなら、必ずこの話をしたでしょう。もし子どもがあまりに幼くて理解できないようなら、
「分からないなりにニュースを見て覚えておきなさい。アメリカにたくさんの人が行けなくなって困っている様子を心に刻んでおきなさい。いつか今日のことを理解して、大変な時代を自分が生きていたと感じる日が来るはずだから」
 そんな言い方をして記憶に留めさせようとすると思います。この指示自体が理解できないかもしれませんが――。

【ネットの海の渡り方】

 教育関連については、“マス・メディアは嘘ばかりついている”と思いながら、それ以外の問題についてあまり疑ってこなかったのは、私が事大主義者であって“専門家”や“識者”といった肩書に弱いからかもしれません。しかし同時に、ネット社会のどこに信頼を置き、依拠すればいいのか分からなかったということもあります。教育問題なら自分を起点にすればいいのですが、その他の件については玉と石を見分ける自信がなかったのです。

 ですからネットでニュースや論説を読むときも、どうしても大新聞社や大手出版社のサイトに向かうことが多くなります。「2チャンネル」のような海千山千の世界に足を踏み入れることもありますが、そういう時は眉にたっぷり唾をつけて行きますから足元をすくわれるということはありません。まずはそんなふうに、瀬を踏み分けてネットの海を渡ってきたのです。
 ところが最近、ずいぶんと雰囲気が変わってきてしまいました。海を渡ることに自信が亡くなってきたのです。
 典型的なのは、DeNAが運営していた医療系サイト「WELQ(ウェルク)」の問題です。

【「WELQ」問題が突きつけたもの】

WELQ」問題は様々な要素を含んでいますが(*)、そのひとつは素人がコピペを中心として書いた不正確な記事が相当数あったこと、そして明らかなウソも意図的に混入されていたことです
*YOMIURI ONLINE『DeNA「WELQ(ウェルク)」休止…まとめサイトの問題点と背景は』参照

 ところでここからが分からないのですが、「WELQ」問題のニュースを聞いた時、人々はどう感じたのでしょう? 「あのDeNAがそんなことするの?」と思ったのか、「DeNAならやりかねない」と思ったのかということです。
 問題が発覚する以前のWELQは、信頼に足るサイトとみなされていたのか、それとも「2ちゃんねる」と似たり寄ったりの眉唾サイトと思われていたかどうか、そう言い換えても同じです。
 問題が発覚する前、「WELQ」の存在すら知らなかった私には判断ができないのです。

 DeNAがその程度だとして、Livedoorはどうでしょう? Livedoorの提供する記事は“一応”程度は信じてもいいのですか? むしろ「2ちゃんねる」並みに扱っておいた方が無難なのでしょうか? 
 ネット上を跳梁跋扈する幾百万の情報の真贋が、かつて以上に分からなくなってきています。

 ニュースについて言えば、以前は新聞社や大手出版社のニュースサイトは一応信用できた(私はそうしてきた)。
 そうしたニュースをまとめた大手ポータルサイトのニュース欄もとりあえず信じてきた。
 ところが最近、Yahoo Japanあたりでも、よく知らないニュースサイト運営会社の記事を積極的に配信するようになった、その記事の価値が分からない。

 Yahoo Japanが大手新聞社と同列に扱うニュースサイトの記事ですから同程度に信じてもいいかもしれない――そう思って読み進むとどうもおかしい、あまりにも変だ、ピントがずれすぎている。署名記事の記者のプロフィールを読んでも単なる素人としか思えない、そういった例がとても多いのです。

(この稿、続く)