「いのちのこと」11〜退院

 金曜日にハーヴは保育器から出され、産着を着てほかの新生児と並んですごすようになりました。私たちも他の家族と一緒に、新生児室の大きなガラス戸から見ることができます。比べてみるとほかの子より幾分大きく、目立って膚の浅黒い子です。生まれた時は紫色でしたからそれでもずいぶんきれいになったと言えます。

 土曜日の午後エージュの両親が800kmの長旅を経て訪ねて来てくれました。ガラス越しの初対面です。
 その夜は街に一泊してもらい、翌日曜日、帰りがけにもう一度病院に寄ってもらうと母子同室が許されたということで、ハーヴは初めて新生児室の外に出てきました。ぎりぎりのタイミングで時間のないお祖父ちゃんお祖母ちゃんのために、抱いてもらおうと外に出て来たのです。ほんとうにいい子です。
 エージュの父親はおっかなびっくりで、まるで年代物のワインボトルを鑑定するかのように手に持って、ためつがえつ眺めています。3人の子どもを育てた母親の方は、これはもうベテランの貫禄でしっかと抱き寄せ、「赤ちゃんのころのエージュとそっくり」と喜んでいます。
 その日の朝、両親とは別に訪れてきたエージュの弟は――ほとんど爆弾でも抱くような様子ですっかり腰が引けています。
 ハーヴは大勢にかわるがわる抱かれて、けれど泣きもせず静かにしています。

 エージュの両親が帰ったあと、しばらくして今度は私の弟夫婦と母が見舞いに来てくれました。ハーヴは眠ったままで大叔父や曾祖母の歓迎を受けましたが、母が曾孫を繰り返し起こそうとするのでほんとうに困りました。
 シーナは何かにつけ涙を流しています。

 さらに二日たった火曜日、最初入院の日から11日目でようやく母子は退院することになりました。

 医師からは、こんな話がありました。
――感染症の問題はすでに解消している。生まれた時に仮死だった影響は今のところ見られない。しかし今後のことはゆっくり見ていくしかない。寝返りの時期やハイハイの頃、立って歩くようになる時期など、その都度、丁寧に見ていきましょう。向こう(シーナの住む町)へ戻っても病院とは常に連絡を取り合ってください。できれば一年後、こちらにも見せていただくとありがたいと思います。

 妻が仕事で休めないので退院には私が付き添いました。良く晴れた、さわやかな日です。初めて屋外に出たハーヴは眩しそうに顔をしかめました。
 シーナが病院前で記念写真を撮りたいというので私はカメラを構え、駐車場に立つ母子の姿を撮影しました。そしてハーヴを車の中に収めると、シーナは「わー」と大きな声を上げます。私は驚いて腰をかがめ、車の中のハーブを見ます。するとシーナは、

「どうしよう! かわいい!」

 ほっとしながら、
《そこまでは、かわいくない》
 私の内心の声は言います。
 しかしそれが母親の感じ方ですし、そうした思いがなければ私たち人類は赤ん坊を育て続けることができなかったのかもしれません。

 シーナの幸せは私の幸福でもあります。

 

                         (この稿、続く)