「暗黒のクラウド」�@

 

 勤務時間内に成績処理などの時間を確保しない限り、教員による情報の持ち出しはなくならないだろう。そして授業時間の確保、業務の拡大という現状を考えるとそうした時間の確保はできない。したがってUSBの紛失をはじめとする情報の持ち出しの問題は絶対になくならない。そう書きました。

 校長会も都道府県教委・市町村教委もその辺りの事情はよく分かっていて根本的な問題解決に乗り出すことはせず、情報紛失は繰り返され処分者も不断に出されます。それで仕方ないと、心の隅で思っていたのです(たぶん――もし本気で怒っている人がいるとしたら、その人はあまりにも現状分析のできない人です)。

 しかし行政はそうではありませんでした。繰り返される不祥事、世論・マスコミからの突き上げ、延々と続く謝罪に辟易していたのです。そこで提案されたのが今日で言うクラウド・コンピューティングクラウド)です。

 10年ほど前のことです。当時勤務していた学校の管理者であるA市の情報担当者から、次のような話がありました。

�@学校のサーバーコンピュータを撤去し、市の情報管理室にあるサーバーに一本化する。

�A教員にはそれぞれ端末が支給されるが、それはいわばモニターとキーボードとマウスのセットで、情報の出し入れは回線を通して市のサーバーから行う。そのセットからUSBなどの媒体を使って情報を取り出すことはできない。

�B家で仕事をしたい人は市のプロバイダと契約してもらい、IDとパスワードを使って市のサーバーにアクセスする。ただし情報を個人のコンピュータに移すことはできない。

�Cどうしても情報を取り出したい人は、市に申請して許可を得てからにする。

 当時クラウドに関する知識がなかったのでイメージをつくるだけでも大変だったのですが、次第に分かるにつれ、これはとんでもないシステムだということになってきました。

 問題の第一は、家で仕事をしたい人はお金を払ってプロバイダ契約をし、「仕事をさせてもらうことになる」ということ。当時すでに若い教員は携帯電話しか持たなくなっていましたから、私のようにプロバイダを民間から市に切り替えればいいという状況ではなかったのです。

 第二の問題は、「一度入れた情報は(基本的に)二度と引き出せない」ということです。家で完璧な仕事を行って紙にプリントアウトして持ってくればいいようなものですが、常に完璧というわけにはいきません。学校で訂正が入り、校内の端末で修正してプリントアウトするとその決定稿は市のサーバーに入って二度と出てこないのです。もちろん決定稿を持ち帰って家で打ち直せばいいのですが、その修正を家でさらに再修正となると、大変な労力のむだです。確かに情報漏えいや紛失の危険はないものの、その膨大なロスを考えるとてもではありませんが現実的なアイデアとは言えません。

 そこで猛然と抗議するのですが、市当局との折衝の場で、私は驚くべき認識の乖離に出会うのです。

                                     (この稿、続く)