「暗黒のクラウド」�A

 まず問題となったのは、自宅で仕事をしようとする場合、市のプロバイダと契約して月々2500円の料金を払わなければならないということです。2500円という金額も金額ですが、「お金を払って仕事をさせていただく」という卑屈さが我慢ならない、教員とはそこまで惨めな職業だったのか、そういう思いで話をしました。

 かなり熱意を込めて話したのですが、そうこうするうちに「それでは2200円くらいで・・・」とかいった条件闘争みたいな言い方で返されたので、さすがの私も腹に据えかねて、

「そういう問題ではない、なぜA市の子どもたちのために働くのに教員が金を出さなければならないのか、そういう根本的な話をしているのだ」

 すると相手は、

「じゃあこちらも根本的な話をしますが、なぜ家で仕事をしたがるのですか、したいなら学校でやればいい」

 何か虚を突かれた感じで一瞬ひるみ、それから、

「学校でやると言ったって、夕飯も食べずに9時、10時ですよ」

 すると、

「じゃあ一度家に帰って夕飯を食べてからまた出かけてくればいい。私たち市役所の職員はそうしています」

 そこでまた私の側に混乱があって《まさか市の職員たちが毎日いったん自宅に戻り、改めて出勤して仕事をしているなどということはあるまい》と思案しているうちに、ふと思いついてこう尋ねました。

「そういうこと――いったん自宅に戻って夕飯を食べ、もう一度職場に戻って仕事をするということ、一カ月に何回くらいあります?」

「月に一回か、二か月に一度くらい・・・」

 そこで私は再びキレました。

「学校はそれが毎日なんだ!」

 言葉の応酬はそれで終わりです。私が勝ったわけではありません。相手が一瞬ひるみ、それから見下すような目で私を見てゆっくりと視線を逸らしたからです。

《オマエ、そこまで言う? いい年をした大人がそんな見え透いたウソをついてまで勝ちたいわけ?》

 彼の表情に私はそんな空気を読みました。全く噛み合いません。

 考えてみればそれはそうなのです。市の職員には超過勤務手当が出ます。休日出勤手当もあります。私たちの感覚からすれば相当な額です。それをわざわざ捨てて自宅で仕事をする理由はどこにもないのです。時間外労働をしなければならない正当な理由があるなら堂々と職場に戻って仕事をすればいい、そのために監督者も仕事ができるだけ勤務時間内に終わるよう配分しているのです。世の中は基本的にそういうふうになっています。そうした常識的な文化になれた人間には、24時間365日教員であるような学校の生活は理解できないのです。

 もう切り上げられた話ですし、互いの間に横たわる溝の深さと大きさに途方に暮れた私はそれ以上深追いしようとしませんでした。もしかしたら月額2500円というのも本気で考えた話ではないのかもしれないからです。何が何でも自宅で仕事をやりたいと、訳の分からないことを言うから一応答えてみた、その程度の話かもしれません。作戦の練り直し、仕切り直しです。

 そしてようやく次の話題、「一度入れた情報は二度と引き出せないシステム」に移ったのですが、そこで私は、さらに深い闇に出会うことになります。

                                      (この稿、さらに続く)