カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「矢面に立つ」~教師が一人でチンピラや暴力団と渡り合うとき

 もう20年以上前の話です。
 出張に行くために校門を出ようとしたら見るからにヤンキーの兄ちゃんが三人、ヌーと立っています。私は平和主義者で反暴力の立場をとっていますので避けて通りたいところなのですが、門扉のわずか2mほど開いたところに立たれているので逃げようがありません。それに学校職員です。しかたないので、「何か用?」と尋ねると。
「先生よォ。この学校にオレ等みたいな者はおらん?」
 背後の車を見ると横浜ナンバーか何かです。
「こんな田舎の学校にそういうもの探しに来てもムリだろう。みんな子どもっぽくて相手にならんよ」
 すると彼らは、「ホー」といった表情でなおも私の肩越しに校庭の方を見やり、「オレ等みたいな者」を探そうとします。
 私は忘れ物をしたようなふりをして踵を返し、玄関から入るより早いので校長室の窓から頭を突っ込んで校長先生に声をかけ、事情を話しました。運よく教頭先生もおられました。

「そりゃあ、ちょっと警察に知らせておいた方がいいな」
 校長先生がそう言って教頭先生の方に見ます。
「ああ、そうですね・・・」教頭先生はそう言ってそれから「T先生、電話しておいてくれや」
(オレかよ!)
 校長先生は慌てて、「そりゃ、教頭が電話するってものだぞ」
 それで、事なきを得ました。

(数年後、小学校の職員室で)

 ある土曜日の放課後、ひとりの先生が職員室に飛び込んできて、「先生、先生、校庭に変な奴が来ています」。
 そう言われておっとり刀で出かけると、確かに校庭の向こう隅に三人のヤンキーがいます(どうしてこいつら、いつも三人なんだ?)。
「先生は中学の方にいらしたから、こういうことには慣れていると思って・・・どうしたらいいでしょう?」
「分かりました(と言うしかないので)」、そう言って私は校庭を斜めに横切り、3人の前に立ちました。そしてグッと胸を張ってひとこと言おうと思ったら・・・背後に人の気配がない。思わず振り返ると同僚ははるか遠くの校舎の軒下で、十数人、固唾を飲んでこちらを見ています。
(をい! 誰もついてこなかったのかよ!)

(また別の学校で)

 校長先生に呼ばれて一枚のプリントを見せられ、
「悪いが他に出る人がいないんだよ。この講習会に出てくれ」
「あの、この『不当要求防止責任者講習』ってなんですか?」
「分からん」
 私は仕事を断らないことを誇りとしていますので一言もなく引き受けました。しかし一方、モンスターペアレンツが話題となる昨今、「不当要求」への対処の仕方を勉強しておくのも悪くはない、そう思ってそこそこ前向きな気持ちで出かけました。ところが最初の「警察署長挨拶」で躓きます。
「えー、このたび『暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律』によりまして・・・」
(ゲッ! そっちかよ!)

 かくして私は「不当要求防止責任者講習」受講者の栄誉に輝き、受講修了書は正面玄関に長く飾られることになりました(警察がそうしろというからです)。暴力団が来たら、まず私が対応します。
 幸い、その後一度も暴力団の方と渡り合うことはなく今日まで来ています(「知り合いにその筋の人がいる」と脅されたことはありますが)。

 しかしあれ以来、学校に『不当要求防止責任者講習』受講依頼がまったく来ないのはどういうことなのでしょう? おかげで私はいつまでも学校でただひとりの「不当要求防止責任者講習」受講者です。