カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「お黙んなさい!」~学校が、学校がとうるさい親に言っておきます

『わが子を確実に東大に入れる方法』というのを知っています。

 まず第一に、学習習慣のある子を育てておくこと。
 第二に、東大合格者を多数輩出している予備校または通信添削を探してやらせること。
 そして第三に、―これが一番大切なのですが、
――飛び抜けて頭のいい子を産んでおくこと、

 これでほぼ決まりです。

 もう10年近く前のことになるでしょうか、市井の教育談義が「反ゆとり教育」で一色になっていた時代、テレビでマイクを向けられた母親らしき女性が一緒になって「ゆとり教育ってホントに困りますわねえ」みたいなことを言っていたので首を傾げました。「ゆとり教育」って、そんなに悪いことなのでしょうか。
 伝説の言うように、本当に「ゆとり教育」が子どもに勉強をさせない教育だったとすると、それで有利になる子どもも家庭もあったはずです。たとえばみんなが毎日30分か1時間しか勉強しない時代だったら、5時間勉強できる努力家は確実に勝てます。つまり努力家を育てればよかったのです。

 ところが反ゆとり教育でみんなが5時間勉強させられる時代が来たらどうなるでしょう。その時間を越えて7時間も8時間も勉強できるわけはありません。家に帰ってから寝るまでの時間には限りがあるからです。
 みんなががんばる時代、つまり同じように大変な努力をする時代が来てしまったら、勝つのは“頭のいい子”です。ほかに要素はありません。そして“頭のいい子”は、生まれてくるだけで育てることはできないのです。

 先のインタビューを受けた女性の子どもは、確率から言えば“頭のいい子”以外である可能性が非常に高い(本当に頭のいい子なんていくらもいませんから)。だったら「ゆとり教育」をどんどん推進してもらい、みんながゆっくり遊んでいる間に自分の子だけしっかり勉強させておいた方がどれだけ有利だったことか。

 もったいないことをしました。国家のためにウチの子を犠牲にしてしまったようなものです。

 その母親は、おそらく今日「世界と渡り合えるだけの人材を育てる世界一の教育」などと言われると真っ先にもろ手を上げて賛成する人です。しかし繰り返しますが、どんな時代にもエリートは極めて少ないのです。あなたのお子さんが「世界と渡り合えるだけの人材」に育つ可能性と、勉強が分からず学生時代のすべてを悲しい思いで過ごす可能性を比べると、あとの方が圧倒的に大きいのです。
 ですから、今から妙なことに一緒になってワーワー言っていてはいけません。

 政治家やマスコミの言うことなんか信じてはいけません、彼らは自分たちがエリートでしたしエリートが大好きなのです。勉強が分からず苦しい思いをしている下々のことなど、ハナから考えてなんかいません。
 学校が授業を増やしてガンガン勉強させればみんなができるようになるなんてことはありません。授業はやればやるほど差がつくのです。

 思い出して御覧なさい。中学校1年生の4月のはじめ、あなたは英語が全く分からないという意味で隣のAちゃんと平等でした。BちゃんもCちゃんもDちゃんも英語に関しては等しく“バカ”で平等だったのです。ところが3年たったらどうでしたか? さらにその3年後は?
 あなたも伸びたかもしれないがその間にBちゃんやCちゃんはあなたの何十倍も伸びてしまい、はるか高みで生き生きと英語使いをやっていたではありませんか。

 授業はやればやるほど差が広がり、それを抑えるにはBちゃんやCちゃんに勉強を辞めさせるしかないのです。でもそんなこと、できるはずがないでしょ?
 だからもう「学校が」「学校が」などというのはやめて、早く家に帰って子どもの面倒でも見ていたらどうですか!

 以上、言いたくて、言いたくて、しばしば喉元まで上がってくるのですが、決して言うことのなかった言葉でした。