カイト・カフェ

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「恐怖のオーラ」~天性の能力を持った人たちが、この世にはたくさんいる

 その昔、三東ルシアという女優さんがいました(今もおられますが)。
―と、この時点で深く頷ける人は相当な年輩でしかもマニアックな人です(ついでに、今日の題名の「恐怖のオーラ」にぴんとくる人も相当に古い人です)。
 失礼ながらそれくらい大したことのない女優さんでした。

 TOTOホーローバスというシステムバスのコマーシャルの「2代目おさかなちゃん」です(と言っても何のことかわからないでしょ?)。その三東ルシアさんに、実際に会ったことがあります。

 気だるい夏の午後だったと思います。東京の阿佐ヶ谷を駅に向かって歩いているとき、300mくらい先からこちらに向かって歩いてきたのです。
 300mですからもちろん顔など分かりません。しかしとにかく“すごい女性が歩いてくる”というのが分かって思わず身構えました。そして数メートルの距離までに近づいて、初めて彼女だと分かったのです。

 何を言いたいのかというと、女優というのは二流でもそのくらいのオーラを発しているということです。それが一流となるとさらに迫力があります。

 30年ほど前のことです。当時、「円」という劇団がありました(今もあります)。その「円」の劇場の狭い廊下で煙草を吸っていた時のことです。
 廊下の入口に背を向けていて気がつかなかったのですが、いつのまにか人が近づいていて、背後から声をかけられました。
「ごめんなさい」
 場所を空けろと言う意味です。その瞬間、私は弾かれたように跳びのき、壁に張りついて思い切り道を空けました。自分の体を1ミリでも薄くして、まるでポスターのようになってその方の役に立ちたいと思いました。見ると大きな黒いツバ広帽子をかぶった小柄な女性で、顔を覗き込んだら「円」の主催者の一人、岸田今日子でした。
 あの低く妖艶な声にはそれだけの魔力があるのです。

 職業柄、おそらくこれまで6千人以上の子どもを見てきたはずです。その中には相当な美人もいればかわいい子もいて、あるいはジャニーズ系の見栄えの良い男の子もいたはずです。しかし誰一人芸能界で活躍するような子にはなりませんでした(あ、お笑いは一人います)。要するにオーラがないのです。山東ルシアや岸田今日子がもっていたような魔力がない。

 十数年前、両サイドに若い男女の先生を配して学年を経営したことがあります。その両方がめちゃくちゃ怖かった―。
 大して怒鳴るわけでも体罰をするわけでもありません。楽しいことや面白いこともたくさんやるのでクラスとしてはとても和やかな雰囲気なのですが、いざとなるととにかく怖いらしいのです。

 女の先生のクラスでは、給食の時間も静かで箸の音しかしません。男の先生は児童を呼び出すだけで子どもは泣き始めたといいます。
「児童会の相談で呼び出しただけでもビービー泣き出して、“すみません、ボクがやりました”と聞いてもいないことを白状します」
 それに比べると私なんて甘いもので、「今、隣のクラスの給食を見てきたら、みんな静かで箸の音しかしなかったぞ」と言うと子どもたちは一斉に箸で食器をたたき始めたりします。

 何が違うのか。
 2年間しっかり観察してきましたが最後までわかりませんでした。要するに恐怖のオーラが違うのです。そうとしか言いようがありません。

 言葉が丁寧になるだけで子どもを震え上がらせる先生もいます。目を細めるだけで相手を凍りつかせる人もいます。
 あれができればずいぶん違うだろうなとも思いますが、仕方がありません。私は私の方法で何とかするしかないのです。