総選挙

 AKBの総選挙が行われたとかでNHKのニュースでも扱われました。社会現象だからということだそうです。

 AKBにはほとんど興味はない、というより分からないのでどうでもいいですが、総選挙の仕組みについては少々感じるところがあります。けしかけられた「競争と幻想」という問題です。

 投票券はAKBのモバイル会員だの公式スマートフォン・アプリ会員だのに登録して手に入れる一票以外に、最新のアルバムCDを購入すると一枚につき一票、手に入るのだそうです。 

 そこから同じCDに53万円もつぎ込んで2700票を一人に投げ込むといった話も出てきます。そこにはアイドルとファンのつくる共同の幻想を利用した、あくどい商売の仕組みがあります。しかしこれにもかかわらず、この件に関して被害者は一人もいない。少なくとも被害者意識をもつ者は一人もいないのです。

 アイドルは票が欲しいファンはその子の順位を押し上げたい、そうしたできごとのすべてリアルな世界で行われます。バーチャルな世界に慣れた人々が、非常に強いリアルの世界(と思われる場)で出会うわけです。

 アイドルの順位を上げたいという気持ちは絶対に本物です(ここの総選挙の仕掛け人の優れた資質があります)。彼女の心のどこにも、人を騙しているとかファンを搾取しているとかいった穢れはありません。

 その切実な思いを、「会いに行けるアイドル」である彼女は、体温の温もりまで伝わってきそうなほどの近さで、目と目を合わせ、生の言葉で伝えてきます。ファンは「いっぱい票を入れるよ」と伝え、アイドルは笑顔で「破産しないでね」と返す。完全に利害は一致し、心情的にも一致しているのです。

 さてそうなるとどこが問題なのかということになります。結果としてぼったくられているじゃないかと言っても、本人が進んでやっているのでは仕方がありません。

 これが競争の怖さなのです。

 自由意思で参加している以上は、だれも被害者ではない。システムとしては、アイドルもファンもいつでも降りられます。しかし一度巻き込まれてしまうと、両者とも心情的には降りられません。どんなに疲弊し、傷ついたとしてもあと戻りはできないのです。アイドルは激しい競争にまい進し、ファンは金をつぎ込み続けます。

 しかしもういいでしょう。それは私たちには無関係な世界、すくなくとも無関係でいようとすればいられるのですから。

 しかし学校は違います。特に義務教育の世界は、普通、「いつでも降りることができる」世界ではないからです。