「社会を動かす者と動かされる者」~歌謡曲考④

  前田敦子というタレントさんの魅力がさっぱり分からないといったら娘のシーナが教えてくれました。
「まず手足が長く身長もそこそこ、センターに立つとやはり見栄えがする。けれどもっと大切なのはオタクがもっとも好むタイプだということ。
 教室の片隅にいてさっぱり目立たたず、ほんとうは魅力的なのに自信がなく、いつもオドオドしている、そんな子。だから選ばれた」
 なるほどな、と思いました。
 実際に前田さんという人はAKB48のセンターにいるあいだじゅう荷が重く、自信もなく、しんどかったと言っています。そもそも初めはAKB内部でもそうとうに異論があり、プロデューサーの秋元康氏にねじ込もうという動きもあったといいます。それにもかかわらず、オタクに支えられてのし上がってきたAKBのセンターは前田敦子だと見抜いた秋元康は、やはり天才にほかならないのでしょう。

 先週、ピンクレディーはミリオンセラーを5枚も出した音楽史上稀有な巨星だと書きましたが、ミリオンセラーの枚数だけで言うとAKB48の比ではありません。AKBは22枚も出しているのです。
 ただしそこには「同一タイトルの複数仕様」や「ランダムな生写真の封入」「各種投票権の添付」など、いわゆるAKB商法によって生み出される水増し販売が数字を押し上げている事実は見逃せません。仕様の異なるすべてのCDを購入したり、目指す生写真を手に入れるためにくじ引き感覚で何十枚も購入する、そういった熱烈なファンが存在するのです。
 秋元康氏は天才であると同時にアコギでもあります。

 かつて「不特定多数の無限の賞賛を要求するアイドルたちは帝国主義者である」といったお門違いの発言をした人がいますが、搾取=非搾取という関係だけを見ればまさに帝国主義的です。そのアイドルたちも背後の人々に搾取されているのですから度し難い世界です。

 もちろんオタクと呼ばれる人たちも、そんなことは百も承知です。承知の上で大してありもしない収入の大部分をアイドルとその背後の人々に投げ込んでいきます。
 本人が納得しているのだからいいじゃないかという考え方もありますが、私はそうは思いません。幸せには客観性が必要だからです。
 かつて精神外科という分野でロボトミーという手術がありました。これは脳の前頭葉を切断する手術で、うつ病などに画期的な効果があると信じられました。また末期がんの患者にこの手術を行うと死の恐怖などから解放され、不安や苦しみを感じることなくその日を迎えられたと言います。主観的には幸福なまま日々を過ごすのです。けれどその“幸せ”を、私たちは積極的に望むでしょうか。
 本人が幸せならそれでいいというものではありません。他の人から見てもある程度“幸せ”でなければそれは忌避されるべきものです。

 搾取される側にではなく搾取する側に回れ。
 そこまでは言いませんが芸能界の(芸能界に限りませんが)策略に乗せられてはいけません。乗せられるにしても限度があります。
 そのこともまた、子どもたちに伝えたいことです。

(この稿、終了)