カイト・カフェ

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「勉強のスポーツも、才能のある子には遊び事」~子どもが夢中になって勉強するようになるために②  

 「勉強しろ」と一度も言われずに育った子たちがいる。
 その多くは頭が良くて勉強が面白かったからやり続けた子と、
 そもそも勉強などしなくてもよかった子たちだ。
 「勉強をしろ」と言わなければやり始めるわけではない。
という話。(写真:フォトAC)

【「勉強をしろ」と言われたことのない子たち】

 17日の「踊る!さんま御殿!!」は、「教育熱心パパママSP阿部一二三・詩のパパ&平野美宇のママの(秘)教育法」がサブタイトルでした(長いな)。その中で「言われなくても勉強をする子」、「言われなければ果てしなく練習するちびっ子アスリート」の話が出てきました。口火を切ったのはフリーアナウンサー中野美奈子さんでした。
「仕事がら講演会の司会をすることが多いのですが、将棋の羽生さんを始めとして有識者の皆さんが声を揃えて言うのが、子どものときに『勉強しろ』って一回も言われたことがないという話です」
 そこで自分も言わないようにしていたらとんでもないことになってしまったと、そこがオチなのですが、どうしたら羽生さんのような子が育つのか聞いてみたい、という方向で話が進みます。
 
 この「優秀で社会的に成功した人は、小さなころから勉強しろと言われたことがない」という話は伝説化されていて、そのために多くの保護者が喉元まで出かかった「勉強しなさい」を、いくど繰り返し飲み込んだか分かりません。しかし我慢していたら勉強をするようになったという話はいっこうに聞こえてこないのです。
 しかしこれは順序が逆、あるいは筋が違う話なのです。

【「勉強しろ」と言わなければ勉強するわけではない】

 順序が逆というのは「『勉強しろ』と言わずにいたら子どもが一生懸命に勉強するようになった」のではなく、「放っておいても一生懸命勉強をする、あるいは勉強しなくてもとんでもない高得点を取り続ける子だったから『勉強しろ』と言わずに済んだ」、それだけのことだということ。
 筋違いというのは、私だって息子が羽生善治大谷翔平だったら「勉強をしなさい」とは言わないということです。勉強をして一流の進学校に進んでそこから東大や医学部を目指すより、奨励会に入ってしっかり将棋と取り組んだり、野球の強豪校へ進学して甲子園を目指してくれる方が、長期的にはよほど得です。羽生善治が将棋を棄てて東大に進学し、大谷翔平が野球をやめて医学部へ進んでも、ただの官僚か医者です。そんなのさっぱり面白くないでしょう?

 それで東大や医学部に未練があるなら、2019年のラグビーワールドカップ日本代表の福岡堅樹のように、スポーツで名を成したあとで医学部へ行けばいいのです。元横浜DeNAベイスターズの投手・寺田光輝も現在は医学部生ですし、現役の根尾昂投手(中日)も、もしかしたら引退後は東大か医学部へ進学するかもしれません。頭の良い子は選択肢も多いのです。
 私だって才能を選んで生れ直せるなら、東大や医学部へ進むより明石家さんまになる方がよほどいいと思っています。

【東大生は勉強が楽しくてしょうがない(らしい)】

 ところで、
「放っておいても一生懸命勉強をする、あるいは勉強しなくてもとんでもない高得点を取り続ける子だったから『勉強しろ』と言わずに済んだ」
というような子は、どうしたら育つのでしょう?
 これについても「踊る!さんま御殿!!」にヒントがありました。

 それは会話の中で東大生について話している最中、さんまさんがチラッと言った、
「頭のいい子って、(言わなくても勉強)するけどな」
というものです。そのあとタレントの横澤夏子さんに相槌を求めて、
なっちゃん、この間(の別番組で)東大生の奴は、好きやってるゆうもんなあ」
と声をかけます。横澤さんも、
「好きなんですよ、勉強が好きなんです」
因数分解とかが好きやってゆうねんから、もうどうしようもないよなあ」
「楽しくてやってますもんねぇ、みんな」
「一日10時間、はい、普通ですって・・・」

【メダリストたちも練習を苦にしない】

 そこから話をスポーツに振り向けて、バレーボールのママさんプレーヤー岩崎こよみさんに練習時間を聞くと、
「一応、6時間くらいは――」
 卓球の平野美宇ちゃんのお母さんは、
「ちっちゃいころだと3時間。大人になってくると5時間~6時間が普通になります」
 阿部一二三・詩選手の父親は、
「(練習は)長い時なら5時間~6時間。ちっちゃいころはメチャクチャ長くやっていたんですが、結局ケガに繋がるので長くはできなくなってくる」
 ロンドン・リオのメダリスト松本薫さんも、
「私は(レスリングも掛け持ちでやっていたので)1日12時間。大人になってからだんだん短くしてきた」
という話をします。
 
 目の前に元アスリートやアスリートの保護者がいたからということもありますが、「東大生は勉強が好きだと言っている。それで10時間も勉強ができる」といった話をしたあとでアスリートたちの練習時間に話を持って行ったのは、やはりさんまさんのお手柄です。センスがいい。
 東大生が10時間勉強するのも、子ども時代の松本薫さんが12時間も練習をしたのも、本質は同じでだからです。楽しいからやる、面白いからやる――。
 何が面白いかというと、やればやるほど技能が向上して成績も伸びてくるからです。伸びてくれば誉めてもらえる――その有能感、成就感、自己効力感こそが原動力です。だから毎日10時間を越える勉強や練習も面白くて仕方なかったのです。
 その意味ではゲームを10時間も20時間も続ける子大差はありません。知力・気力・体力に恵まれれば(ということは優秀な親の遺伝子を受け継いでいれば)、現在ではEスポーツで大儲けできる出世頭になるかもしれません。

【彼我を隔てるもの】

 では東大生やオリンピアンと私たちを隔てる差は何なのでしょう? ひとことで言えば私たち凡人の場合は、かなり早い段階で成長に限界が来てしまうということです。
 勉強で言えば、かけ算九九の習得が遅れる、漢字が覚えられない。英単語が覚えられない、化学式が分からない。さらに簡単に言えば「テストで点数が取れない」――。テストで毎回40点しか取れない子は、優秀な子が30分で到達できる地点まで、6時間かかってもつかないのです(例えば私)。そんな子に「がんばれ」と言っても頑張り切れるものではありません。
 スイミングに通い始めたが途中から停滞して進級できない、リトルリーグでは補欠にもなれない――ところが親の優秀な遺伝子を受け継いだ子たちは、逆になかなか止まらない。

 幼いころから水泳とバドミントンで基礎体力を養い、小学校3年の時にリトルリーグで野球を始め、全国大会にも出場。小学校5年生にして球速110 km/hを記録し、1試合で6回17奪三振といったとんもない記録も残す。中学校時代はリトルシニアに所属してここでも全国大会に出場、高校は地域の名門校で1年生からレギュラー、甲子園にも出場を果たし、ドラフトでは1位指名を受ける――大谷翔平です。
 これで野球が嫌になるわけがない。“やる気スイッチ”は常に入りっぱなし、長時間の練習もやった分だけ伸びる気がしてまるで嫌ではありません。スポーツでも勉強でも、身体を壊す前にやめさせるのが親の務めになります。
(この稿、月曜日に続く)