カイト・カフェ

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「こうしてみると改めて凄まじい四月の月暦」~四月バカの話ではないが四月バカみたいな4月当初のできごと(最終)

 入学式・始業式が終わっても楽にはならない。
 子どもがくるとなおさら切羽詰まる。
 しかし忙しさの大部分は不可欠な内容でつくられている。
 削れない、人を増やすしかない。
 という話。(写真:フォトAC)

【子どもが来るとなおさら切羽詰まる】

 怒涛の4日間が終わって学校は一応の落ち着きを取り戻し、日常の生活が始まる――という訳ではありません。いままで教職員全体の動きに合わせていなければならなかった上に、さらに児童生徒の動きが被さって教師個人の動きを制約するからです。

 それでも小学校の場合は新一年生のみが学校探検だの給食配膳練習だのと非日常的な日々を送り、他学年は次第に日常的な生活に戻っていくことができますが、中学校はそういう訳にはいきません。新一年生の学級担任が自分のクラスの学級指導(学習オリエンテーションや学級内係編成、委員会編成・校内巡り・給食指導など)に縛られている間、その先生が教科担任として2~3年生のクラスに来てくれることはないからです。必然的に2~3年生の学級担任も自分のクラスに縛られます。
 学校によっては2~3年生に「進級お祝いテスト」などという少しも嬉しくない試験を実施するところがありますが、半分以上は時間つぶしが目的のようなものです。試験監督なら自分の教科でなくても、学級担任で対応できますから。

【こうしてみると改めてすさまじい四月の行事】

 温泉ガエルとか熱湯カエルとかいった寓話があります。
「ビーカーの中で次第に温められ茹でられたカエルは機を逸して死ぬが、最初から熱湯を入れたビーカーに投げ込まれたカエルは瞬時に飛び出して助かる」
というものです。
 いま改めて学校の4月暦を眺め、学校のすごさ・すさまじさ・異常さに気づけるのは、私のように時間を経て現場感覚を失った者と、初任者だけなのかもしれません。
 
 文章を今日の一行目まで戻して――、
 怒涛の4日間が終わって、しかし学校の殺人的な多忙はまだまだ続いていきます。ネット上で拾ったある中学校の4月暦を見ると次のようになっています。
  5日 対面式、生徒会オリエンテーション、PTA引継ぎ会
 8日 1年部活説明会、学習オリエンテーション、交通安全教室
 9日 部活見学開始、PTA三役会、専門委員会
10日 避難訓練
11日 身体測定、第一回生徒会
12日 内科検診、防犯教室
15日 全国学力学習状況調査
16日 地区生徒会
17日~23日 家庭訪問①~家庭訪問⑤
24日 歯科検診、生徒総会
25日 参観日、学級PTA、PTA総会
26日 部活発足会
30日 後援会三役会 
 とりあえず4月中だけでこれほどですが、保健行事だけでもやり残しが「検尿」「血液検査」「心電図」「耳鼻科検診」「眼科検診」。歯磨きをしっかりしましょうといった「歯科指導」も、きちんとした食事・栄養摂取の習慣づけを目指す「食育」も早めにやっておかなければなりません。
 課外では部活動も一年生を迎えて、いよいよ本格化します。

 生徒に関わらないので月暦には入ってきませんが、教員評価は4月から始まりますし、初任者には初任者研修が、そして1学年担任には指導要録の作成といった仕事もあります。
 改めて見る私も驚きますが、新任の先生方、あるいは4年目くらいまでの先生方が絶望的なまでに大変なのはよくわかる話です。

【家庭はどこまで子どもの健康に気を遣ってくれるのだろうか】

 月暦や年間暦を見るだけで、学校が至れり尽くせりの場であることが分かります。ときどき、
「学校は勉強を教えるところ。教科以外のことは家庭に返すべきだ」
と言ったりする人がいますが、身体測定や内科検診、歯科検診などを家庭に返して、どれだけの家が対応してくれるでしょう?
 ここは注意深い表現で言いますが、私の家は夫婦で教員でしたからこれらについてはきちんとやったはずです。人間ドックの料金を参考にすれば歯科検診を入れても毎年4万円ほどの出費で済むでしょう。病気になってからでは4万円では済まない可能性もありますから年休をとってでも連れて行きます。その上で当然、自分たちの子が親になった場合も同じことを強制し、孫たちの健康を守ります。
 しかしやらない家、できない家も少なくないはず。放っておくと小学校6年生でも永久歯のほとんどないという子どもが出てきますし、重大な疾患が見過ごされたりもします。
 これは格差の問題です。学校教育はそもそも格差解消が最大の使命のひとつだったはずです。

 またこれを経済面から考えると、身体測定や検診を親に任せた場合、将来の医療費はとんでもなく膨れ上がるということです。医療保険を、使う人が増えて病気のために払えない人が増えます。子ども時代の不摂生のために有能な人材が次々と倒れ、税金を払う人が減って使う人が増えます。
 子どもを家庭に返すためには、社会的勇気が必要です。

【生涯に渡って命を守る教育】

 避難訓練や交通安全教室は、児童生徒がその学校に在学している間だけの危機管理ではありません。「身を守るということはどういうことなのか」「どういう行動が結局は安全に繋がるのか」を知って生涯に渡って実践できるよう、心と体と反射神経を育てておくためのものです。
 一昨日、台湾東方で発生した地震による津波のため、沖縄県各地の島々では多くの人々が高台に避難しました。時節柄かなりの観光客も一緒に避難せざるを得ませんでしたが、見知らぬ土地でもパニックに陥ることなく、無事避難できたようです。もちろん東日本大震災の際の体験がありますが、実際に動けるのは幼いころから繰り返してきた避難訓練のおかげだと私は思っています。
 今年1月2日の日航機・海保機衝突事故で 日航機の400人近い乗員乗客が、わずか三か所の出口からたった18分で脱出できた―― そんな奇跡を可能にしたのも、間違いなく学校教育です(*1)。

【守るべき教育は守る】

 もう一度4月暦に戻ると、全国学力学習状況調査だの教員評価だのは削ることができても、歴史があり定評のある避難訓練などは、どんなに忙しくても削ってはいけないことが分かってきます。しかしもしそれも支えられなくなってきているとしたら、私はやはり人を増やすしかないと思うのです。せっかく定年延長も始まって人を増やせる条件が生れているのです。学校体制を整える最後の機会です。
(この稿、終了)