カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「悪食惨題(あくじきさんだい)」~食と人格の話③ 

 私がどの程度好き嫌いが多く、
 母がどのくらいいい加減であったかについて話そう。
 それは母のオリジナル料理について聞けば、
 自ずと理解できることだが。
という話。(写真:フォトAC)

【悪食惨題】

 好き嫌いが多かった。食べられるものがなかった、ワガママだったと言いながら、どの程度の者だったかは具体的にお話ししてきませんでした。
 そこで今日は、料理嫌いの母が発明した食事の中で、特に悲惨で、それにも関わらず私が好んだもの三つ、お話しします。したがって「三題」ではなく「惨題」です。

【洋風猫マンマ・バター入り】

 好き嫌いが多く食の細い私にホトホト手を焼いた母は、最期は諦めて私のご飯に味噌汁をぶっかけ、それで済ませることが多くなっていました。それで私も食べ物が流し込めるのですが、今のように減塩運動の盛んな時期ではありませんから、ご飯が入っているとはいえやはりしょっぱい。そんな折に母が聞いてきたのが、
「味噌汁にバターを入れるとおいしい」
という情報です。さほど裕福でなかった私の家に、なぜバターがあったのかは今も謎ですが、バターをマーガリンに換えるという発想はなかったようで、現在の標準的なバターを縦に半分に割ったようなものを広げて薄くスライスし、「猫マンマ」に入れと本当に美味でした。

 「洋風猫マンマ・バター入り」
 この話をひとにするとたいていは引かれますが、世に「味噌バターラーメン」があるからには、味噌汁にバターを入れればおいしいことは誰にでも分かることです。さらによく温めたお皿にバター入り味噌汁を広げ、そこに蒸したてのジャガイモを入れて崩しながら食べるという話もありますから「洋風猫マンマ・バター入り」がまずいはずがありません。ぜひ試してください――とは言いません。何か下品ですから。

【魚肉ソーセージ入り牛乳茶漬け】

 温めた牛乳に砂糖をたっぷり入れ、炊きたてのご飯、どんぶり一杯にかけます。それだけでは塩気もなく色合いも寂しいので、半月形に切った魚肉ソーセージを散らせます。これでサラサラと喉を通ります。
 白いお米も牛乳の中では半透明に光り、見た目は本当においしそうではない。特に砂糖を入れるところなどは最悪です。さすがに私でも今は試す気になりませんが、子どものころはとても好きだったような気がします。

 温めた牛乳に砂糖と言えば思い出すのが、鍋で牛乳を温めて砂糖を入れたあと、卵を一つ割ってかき混ぜ、「卵スープ風ホット・スイート・ミルク」と言えそうなものもありました。これも試す気にはなりません(でも、たぶん今でもおいしい)。

【マカロニサラダ丼】

 要するにどんぶり一杯のマカロニにマヨネーズをたっぷりかけ、それだけでは寂しいので、半月形に切った魚肉ソーセージを散らせます(って、さっきも書いたな)。世に言うマヨラーたちならすぐにも賛同してくれるはずです。とにかく腹はいっぱいになるし、油と卵と酢の豊潤な香りが口の中に広がります。
 実は今年の春にすべての仕事から身を引いた弟が、週2回、母の家で食事をするのに、しばしばこの「マカロニサラダ丼」をつくっていることに、私は気づいています。高カロリー・高油脂・高コレステロールと、老人には最悪の食事です。家庭では絶対食べられない、許されない食事――それを母の家で隠れて食べているのです。
 その他、母の家にはこの春までなかった、カップラーメン、カップ焼きそば、ミックス・ナッツ、チョコレート等々、健康に悪い(ある意味でだからおいしい)食品が徐々に増えつつあるのです。
 
 マヨネーズと言えば惨題からは漏れましたが、冷や飯どんぶり一杯をマヨネーズで和え、なにも加えずそれだけで食べる「プレーン・マヨ丼」というのもありました。冷や飯という条件がつくのは、暖かなご飯だとマヨネーズの酢の匂いが立ち上ってきて、酢の物が食べられない私の限界値を越えてしまうからです。
 冷や飯と言っても、真冬の冷や飯では喉を通らないので「プレーン・マヨ丼」、我が家では夏限定のメニューだった気がします。

【昔の親はいい加減だった】

 しかし書いてみると、よくこんなので生きて来られたな、と思ったりします。牛乳を温めることも、その牛乳に砂糖を入れるも、今となっては信じがたいことです。
 しかしそれほど小まめに糖分を摂取して、おまけに歯ブラシがいい加減だと、やはりむし歯にはならざるを得ません。
 実は昨日、銀を被せたむし歯のひとつが、ポロっと取れてしまいました。私の地域に歯科医の今日までです。滑り込みセーフ。まだまだ運はある――と思ったのですが、そもそも健康な歯を維持していれば、こんなことにはならなかったのですね。
 私の母に限らず、昔の育児、健康管理なんてこの程度のものです。今の親の方がよほど仕事をしています。
(この稿、終了)