カイト・カフェ

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「それでもシャーペンでは字が下手になる」~私の常識は世間の非常識⑤

 シャーペン、ボールペン、そして体に合わない食卓と椅子。
 これが子どもたちの字を下手にして背骨を曲げる――。
 こうした私の主張は、しかし見向きもされない。
 だが見ているがいい、それでも地球は回っているのだ。
という話。(写真:フォトAC)

【再び、字が汚くて許されるのはブサイクだけだ】

 明石家さんまが司会を務めるトークバラエティ「踊る!さんま御殿!!」では、テーマが変わるたびにショートコントのビデオが流されます。今週の「御殿!!」の三つ目のテーマ「私だけが知っている仲間の素顔」で取り上げられたのは、次のようなものでした。
 
「クラスで一番勉強ができる友人は・・・」
「運動神経も抜群だが・・・」
「実は・・・」
「文字がありえないくらい下手なこと」

 もちろんコントですから再現ビデオの主人公はたいへんな美人で、彼女の書く文字はそれこそ「ありえない」レベルの金釘流です。先週、私がハラスメント告発覚悟で言った「字が汚くて許されるのはブサイクだけだ」はこういう意味です。美人で、頭が良くて、運動ができるという長所の三冠王でも、「字が下手」で軽く相殺されてしまうのです(「だからつき合いやすい」という点で長所と考えるべきかどうかは、改めて議論しましょう)。
 逆に、大して美人でもなく勉強もほどほどで、運動でもパッとしない子も、字が美しければ“七難”も隠してしまうかもしれません。しかもそのためのコスト、子どもの字を美しく保つために親や教師がすべき努力は、案外小さなものなのかもしれないのです。

【つい30年前の子どもたちですら、今よりずっと字は上手かった】

 10数年前、私の最初に担任した中学生たちが42歳になり、「厄払い同窓会」を開いたことがありました。成人式にも呼ばれたとは言えそこから数えても22年。卒業時から計算すると27年もたっていますからなかなか思い出せないことも多く、そこで卒業記念文集を引っ張り出し、一通り目を通して記憶を呼び覚まそうとしたのです。そしてまず驚いたのは、四半世紀前の中学生たちの字の上手さです。もちろん大人の字として見ればまだまだなのですが、現代の子どもたちでは決して見られない全体的な質の高さです。

 この子たちが中学校を卒業したのが1985年。ゼブラが100円のシャープペンシルを発売した5年後で、「シャーペン」の愛称で家庭内に溢れ始める直前くらいの時代です。小学校時代のほとんどをシャーペンなど見たこともなく過ごし、中学校の3年間もあまり触れずに来た子たち、つまりシャーペンの恩恵も害悪もほとんど受けていない最後の子たち――私が「シャーペンは字を下手にする」と考える根拠は、このあたりにもあります。
 
 さて、先週は5日間をまるまるかけて、
「子どもにシャーペンやボールペンを渡すのはやめましょう、リビングルームで勉強するのはいいことだが、椅子とテーブルの高さに十分気を遣いましょう」
という話をしたのに、今日また繰り返して訴えるのは、私にとってのこの常識が、世間的には非常識どころかまったく歯牙にもかけてもらえず、完全に無反応のまま通り過ぎてしまわれそうなものかもしれないと気づいたからです。愕然としています。

【歯牙にもかけてもらえない】

 このブログで起こったことではありません。もともと来訪者が少ないですし、それも3分の2は検索によって来られた方ですから、最新の記事を読んでくださる方はさらに少ない、それはそれで仕方がないと思っていますので別に衝撃ではありません。

 そうではなく、私が無視されたと感じたのは10月22日付朝日新聞デジタル「主流は2B、シャーペンは禁止?バトエンは? 小学生の書く道具は今」という記事の、それを転載したYahooニュースのコメント欄に私が書き込んだ、次の一文です。
 
(記事には「全学年でシャーペンは原則禁止。理由の一つは『子どもの発達段階では筆圧が安定せず、芯がすぐに折れてしまう』。さらに、『芯の入れ替えなどでペンを触っていると授業に集中できない恐れがある』」とあるが)
 子どもにシャーペンを使わせたくないのは「芯が折れる」からではなく、
①芯が折れやすいから、軸を立てて書くようになる。すると指の可動域が極端に減ってきちんとした字が書けなくなるため。
②軸を立てるとペン先(芯先)が手に隠れて見えなくなるため、a.体を傾けて横から見る。b.手首を90°内側に反して無理な姿勢で書く。c.紙を右上がりに傾けて斜めに運筆する等、無理な姿勢や動きをしなくてはならないため。
です。

 先週の私のブログの要約した内容です。
 これにgoodがつかないのはかまわないのですが、badがひとつもつかなかった――それなのに「私の学校の禁止理由はノック音がうるさいからです」というコメントが1件入って、それものちに削除されます。Yahooニュースのコメント欄は誰も反対できないような当たり前のことを書いても、2~3人はbadを押してくるひねくれ者の巣窟(そうくつ:ネット上では昔、「すくつ」と読んだ)です。何もつかないということはありえないのです(いや、実際にあったのですから、あるのでしょうが)。
 私の常識は、良し悪しを言う気もなくなるほどに変なものなのでしょうか・・・と、そこで今週のサブタイトルが「私の常識は世間の非常識」になったわけです。

【それでも地球は回っている】

 そこで改めて調べ直すと、《シャーペンやボールペンを使うと字が上手く書けない》とか、《久しぶりに鉛筆で書いたら、とてもうまい字が書けた》といった個人的な感想や疑問はたくさん出てくるものの、学術的もしくはそれに準ずるような文章は、「変体少女文字の研究」に関わるもの以外、まったく出てきません。

 姿勢の方は――やはり筆記の際中の子どもの猫背の気になる人が多いようで、今年の7月には顔を近づけると自動的に芯が引っ込んで書けなくなるシャーペンなどというものも発売されています。

www.risu-japan.com ただし私の感覚からすると、《姿勢を悪くするシャーペンを使って姿勢を直す》というのも本末転倒のような気もします。

 いずれにしろシャーペン・ボールペンが字を下手にする(少なくとも上達を阻害する)というという研究は、「変体少女文字の研究」以外にもなくてはなりません。もうしばらく調べてみましょう。
(この稿、終了)